前のめり変化態勢

シヨゥ

第1話

「変わるには何から始めたらいいと思う?」

「変わるという強い意志を持つことですか?」

「強い意志を持つことなんてできると思う?」

「本気であれば」

「じゃあその強い意志というのは永遠に持ち続けられると思う?」

「永遠ですか!?」

「そう。一生涯かけても変えられないかもしれないんだから、永遠に持ち続けないと」

「それは……無理です」

 変わりたい。そう相談を持ちかけてきた後輩の言葉は尻すぼみになる。

「だよね。だからさ、強い意志でなんか人は変わらないんだ」

「じゃあどうしたら今の自分を変えることができるんですか?」

「それはね……習慣を変えることだよ」

「習慣を変える?」

 後輩が前のめりになる。

「そう。習慣を変える。とは言っても劇的に変化させてはいけないよ。反動が来るからね」

「はぁ」

「腑に落ちていない感じかな。それじゃあ走るときのことを考えてみよう。ゴールが変化後の自分だとした時、君の姿勢はスタートラインでどうなる?」

「……前傾姿勢でしょうか?」

「そうだね。じゃあ前に傾くほど変化量が大きいとしよう。劇的な変化。つまりは前に重心を置きすぎるとどうなる?」

「転びますね。スタートも出来ずに。なるほど! そういうことですね」

 まるで霧が晴れたような明るい顔をする。

「変化量は少なくても前に傾けることで自然と前に出る。つまりはゆっくりとではあるけれども目指す変化後の自分に近づける。習慣か。なるほど」

「納得してくれたようで何より。じゃあ具体的にどう変化させたらいいか。賢い君ならすぐ決まるんじゃないかな?」

「ありがとうございます! 早速考えてみます!」

 後輩は立ち上がると部屋を飛び出していった。

「若いっていいなぁ」

 その背を目で追う自分に老いを感じる。こんな話をしときながら今は変わることが怖かったりする。

「見習わないとね」

 変わる恐怖に打ち勝つこと。これも重要なのだ。ただ彼らのような若い子たちは意識せずとも打ち勝てる。怖いもの知らず。それが彼ら若者の武器なのだ。そんな若者のような心であり続けたい。そう切に願うのだった。

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前のめり変化態勢 シヨゥ @Shiyoxu

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