屈辱
むーこ
発端
規則的に吊るされた数多のシャンデリアの下で、黒い革張りのソファにふんぞり返りアルマンドをあおる青年。白い柔肌に切れ長の目、スラリとした鼻筋は"美形"と称するに相応しく、彼のそばに控えたホステス達が浮足立っているのが誰の目にもわかる。
青年の向かいには品の良い紺色のスーツに身を包んだ中年男性。綺麗に髭の剃られた若々しい容貌に笑みを浮かべ、得意気にホステスを紹介してみせるこの男は大手食品メーカーの社長であり、青年をこのクラブに招いた張本人である。
男にとってこの宴席は厄介な仕事の1つだ。取引先の御曹司である青年の機嫌に会社の命運がかかっている。だからこそ有名企業社長御用達だという高級クラブへ青年を招き、選りすぐりのホステスとシャンパンを用意した。これで特別機嫌が良くなるまでいかずとも悪くなることは無かろうと踏んだ。
ふと、青年が1人のホステスに目を向けた。店内で最も若く愛嬌のある顔つきをした女だ。
「その娘が気に入られましたか?」
尋ねる男を無視し、青年はホステスを呼び寄せる。そうして自身の隣に腰掛けたホステスの顔をまじまじと見つめながら、青年はこう言い放った。
「顔に痣あるよね」
ホステスの顔が強張る。男と他の女達にも緊張が走る。
「化粧で隠してるみたいだけどわかるよ。怪我?」
「いえ、生まれつきです…」
「病院は?」
「全く…」
「治してもらわないの?今レーザー治療で綺麗にしてもらえるよ?」
真っ直ぐな瞳で青年が問う。誰がどう聞いても余計なお世話であるが、青年は親切のつもりで言っているらしい。
問われたホステスは愛想笑いを浮かべて答えるが、その顔は明らかに引きつっている。
「考えてみます…」
「治してもらいなよ。なんか汚いじゃん」
ホステスの表情から完全に笑みが消えた。
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