第49話温泉の調整

 レティが聖光魔法を覚えたことで一つ弊害が発生してしまった。それは温泉の入浴が徐々に厳しくなっていることだ。


 やはり暗黒属性と聖光属性は相性が悪いらしく聖女程ではないにしろ肌がピリピリと少し痛むようになってきたらしい。


 お兄ちゃんとしてはせっかく楽しみにしている温泉を自分の暗黒魔法のせいで奪ってしまうようなことは何としても避けたい。


「ふぅー、湯の中はとても気持ちがいいな」


「若いのにわかってるじゃねぇか。この黒い湯はかなり効能がありそうだよな」


 僕の隣には息子のピースが誘拐されたジャスティンさんがいる。勇者のせいであるとはいえ、巻き込んでしまっだけに少し申し訳ない気持ちもある。


「ジャスティンさん、先日はご迷惑おかけ致しました」


「巻き込まれたのはお互い様だろうが。レティちゃんも無事でよかったよな。それよりもお守りが売れまくってやばいんだよ。ありがとうなレン、これもお前のおかげだよ」


 御神体が全く売れなかったジャスティンさんもお守りと御札のセットが売れているようで、ピースのお小遣いもアップしそうだ。


「ただの木札がこんなにも売れるとは思いもしませんでした」


「ああ、これも聖女様パワーってやつなのかな。あと神獣様効果だな」


 聖女ミルフィーヌと神獣リタのコンビは、先日闇ギルドのA級犯罪者を捕らえたことでその評価をさらに高めている。まさに守り神として商人だけでなく冒険者にも人気が出ているらしい。


 観光地となったルミナス村は第一陣の商人グループが去った後も続々と人がやってきている。宿泊施設は既に二ヶ月先まで埋まっており、この勢いはとどまることを知らない。


 観光名所と呼べるようなものがミルフィリッタ教会と温泉しかないというのにたいしたものだ。


 さて、ここで前から考えていたことを実行に移そうと思う。温泉の黒い成分は間違いなく暗黒属性が影響している。この暗黒成分が聖光属性と反発することで肌にピリピリとした痛みを発生させている。


 ではこの成分を少し抜いてみたらどうだろうか。僕は人がいなくなったのを見計らって外にいるスライムに湯に含まれる暗黒成分を吸収するよう念話で指示を出した。


『まずはスライム一匹で試してみるねー』


 スライムのスキル吸収で暗黒属性成分を少しだけ抜いていく。抜きすぎてしまっても温泉としての効能が減ってしまうかもしれないのでその見極めは大事だ。


 しばらく時間が経って、若干成分が減ったような気がするけどまだ多い。スライムをあと二匹投入しよう。


『了~解』


 ここ最近スライムの需要がとても高くなってきてる。魔族領にも何匹か派遣しなければならないし、今は王都にもローテーションしている。数が圧倒的に足りていない。十匹に増やしてから結構時間も経つし、そろそろ数を増やさなければならない。


『仲間を見つけるの? 探してこようか?』


 どうやらスライムが気を利かせて仲間を集めてくれるらしい。ここはお言葉に甘えてお願いをしておこうか。


 スライム三匹による吸収は良い加減となっているようで、暗黒属性成分がかなり抑えられている。これならレティも安心してお湯に浸かれるのではないだろうか。


 ついでに聖女も入れるようになってしまうが、同様にルミナス村の住人となった神官さん方も湯に浸かれずに困っていたようなのでそろそろ手を差し伸べる時期だったのかもしれない。


 急に温泉が大丈夫になって不思議に思われるかもしれないが、適当に温泉の成分が安定してきたからだとか噂を流しておけば問題ないだろう。


 さて、それよりもスライムをテイムしなきゃだな。ちょっと長風呂になってしまったからのぼせ気味だ。少し休憩してから集合場所まで向かうか。


 それから特に何も考えずにスライムがいる待ち合わせ場所まで向かったのだが、途中で気づくべきだった。何故か待ち合わせ場所がやけに遠いことに。


「おいっ、これはスライムじゃないだろう」


 そこにはとびきり大きな尻尾のない黒いドラゴンがこじんまりと佇んでいた。


「えっとねー、こっちのはユリイカが物理的にテイムしたブラックドラゴンだよー」


 尻尾が無いのはユリイカの爆炎魔法で焼きとられたということか……。


 それからテイムは物理的にするものではない。魔力で繋がりを持ち、お互い信頼関係の上に成り立つもの。決して暴力的な上下関係ではない。


「そっちの本当のスライムはテイムしよう。僕と契約を結んでもらえるかな?」


 ブラックドラゴンとやらは見なかったことにして水色のプルプルした可愛らしいスライムに話し掛けると僕のそばに集まってくる。


 どうやらテイムさせてくれるらしく、僕のダークネステイムによって当たり前のようにブラックメタルスライムへと進化していった。追加で更に十匹。これだけいれば魔族領と王都に向かわせても数的に十分だろう。あっ、そう言えば温泉の成分調整もあったか。


「おいっ、普通にテイムされようと並ぶんじゃない」


 スライムの後ろに並ぶようにしてどデカいブラックドラゴンも僕にテイムされようと近寄ってきていた。


「ご主人様ブラックドラゴン嫌い? テイムしないの?」


「好きとか嫌いとかではなくて、何で僕がドラゴンをテイムしなくちゃならないんだ。僕は農家で村であまり目立ちたくないんだ。ただでさえリタをテイムして目立ってしまってるのに、ドラゴンとか絶対無理だって」


 おいっ、そんな悲しそうな顔するんじゃない。ドラゴンだから表情まではわからないけど、すごく悲しそうな顔してるだろ。

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