第31話聖女の祈り
聖女が祈りの間に現れると、それまでザワザワとしていた観光客は静かになり胸の前で手を組む。後ろにはホーリータラテクトに扮したリタが後ろを歩いていた。
すぐに神官による演奏が始まり、場の空気は神殿らしい厳かな空気と荘厳な雰囲気に包まれていく。
こういった演出というのも大事なのかもしれない。というか、神官さんって楽器も扱わなければならないんだね。ただ聖光魔法を使えればなれるというわけでもなさそうだ。
「みなさんご静粛に。これより聖女ミルフィーヌ様と神獣様による祈祷をはじめさせていただきます」
壇上に立つミルフィーヌの姿に多くの人の目が奪われていく。どうも巷には聖女ファンというのがいるらしく、手を組みながら感極まった表情で目をうるうるとさせている。
「う、美しい……」
「やはり歴代でもトップと言われる美貌の聖女ミルフィーヌ様」
純白の煌びやかな衣装を身にまとい、優しげな慈愛の表情を浮かべている。普段うちではあまり見せない姿だ。聖女を演じるというのも意外に大変なことなのかもしれない。
そしてもう一人の同居人であるホワイトクイーンタラテクトのリタ。台座には自らのキラキラな糸で階段を造り上げて器用に登っていく。司会の方が「神獣様のレインボウブリッジが完成しました。どうぞみなさん盛大な拍手を」とか言っている。あれを打合せしていたのだろうか。
「あ、あれが神殿が認めたというルミナス村の守り神」
「神獣様か……」
「何て美しいのだろうか」
リタの方はというと用意された台座の上に乗ると座布団の上に行儀よくお座りしている。これで50,000ギルは何かずるいぞ。
それにしてもミルフィーヌとリタのコンビは観光客に人気が出そうだ。聖女の追っかけをしているような者はリピート率も高いだろう。場所的にも王都からすぐだし、割かし気軽に会いに行けるアイドルなのではないだろうか。
「本日はミルフィリッタ教会にお越しくださりまして誠にありがとうございます。みなさまの信仰により今日も世界は愛と希望に満ち溢れております」
「「聖女様ぁー!!」」
「ご、ご静粛に!」
「祈りの間ではあまり大きな声を出してはいけません。それではみなさんにミルフィリッタ教会から聖光なる愛のお祈りをお届けいたします。再び手を胸の前で組み、頭を下げて目を瞑り愛を願いましょう」
楽器の演奏に合わせてミルフィーヌの歌、聖歌が祈りの間に響き渡る。なるほど、歌に合わせて魔法を使っているのか。
ミルフィーヌは聖光魔法を起動すると祈りの間全体に広がるように癒しの魔法を展開していく。多重展開による精度の高い魔法ではある。
しかしながらこれは普通の癒し魔法であるヒールだ。
「これにてミルフィリッタ教会による、こけら落としプレミアムチケットの会は終了とさせていただきます。このあと、聖女様と神獣様へのプレゼントを持参されている方は前の方に。神獣様との触れ合いを希望されている方はこちらにお集まりください」
プレミアムチケット、いったいいくらしたのだろうか。神殿のことだ、結構な額を設定していそうだけど何だか怖くて聞けない。ルミナス村はもう神殿に逆らってはいけないような気もする。それは村長をはじめ、村の人たちを見ていれば自然とわかる。
ここはもう寂れた農村のルミナス村ではなく、王都からすぐの観光地で奇跡のルミナス村なのだ。
祈りの間にいる観光客は全員が聖女様へプレゼントを持参している。渡しているのはお菓子のような物から高価な宝石まで。
「宝石が貰えてしまうのか……」
ニコニコしながら宝石を持ってきた人には聖女が手をとり「あなたにミルフィリッタのご加護を」とか言っちゃっている。これはかなり業が深い。
高価な物を持ってくれば聖女から声をかけてもらえるのだと周りに知らしめるかのようだ。
人の世界における信仰というのは驚くほどに浸透している。これは魔族と比べて力の弱い人族が神にすがるための教典なのか。
それとも戦えない者にとって傷や病いを癒してくれる神殿は身近にある奇跡ということなのだろうか。
人の世界において神殿は味方につけておくべき存在だと思わざるを得ない。僕もルミナス村の一員なのだ。お世話になっている村人と共にルミナス村を盛り上げていきたい。そうすることがレティの為にもなるはずだから。
「っと、リタは大丈夫かな?」
聖女へのお布施が済んだ人の達は隣の台座に佇むリタの元へとやってくる。台座の前には大きな籠が用意されており、トマクの実が積み上げられている。
こんなところでミルキーちゃんの広告宣伝効果が発揮されている。プレゼントされた物はリタが持ち帰ることになっている。つまり僕の育てたトマクの実が再び戻ってくることになるのだ。
プレゼントされたトマクの実をミルキーちゃんに納品することで僕は更に利益を上げることができるのか。
もちろんトマクの実の納品先は王都がメインだし、ルミナス村においてもミルキーちゃんだけでなく、定食屋だったり宿屋で提供される食材として使用してもらっている。
「やはり我が家の稼ぎ頭はリタか」
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