業報

はな

第1話


好きな子が、突然亡くなり


恋人が、突然東京に行ってしまった。



余りにも突然の出来事で、対応しきれず気が変になりそうだった


そして、


哀しみの日々を過ごして 数年後の春…


夕方に、夕刊を取りに行ったら、住所が書かれてない、ただ「真さんへ」と書いていた手紙が入っていた。

直接投函したのが理解できた。差出人の名前も書かれていなかったが女性の文字なのが解った。その場で手紙を開いて見たら最後のページに名前が見えた。

「ェ! 恵?」…嬉しくなり、急いで自分の部屋に戻って手紙を読んだ。


要約すると、東京から戻ってきた事、又高校の時の様に会ってお喋りしましょう。

と言う内容だった。


恵は、高校三年生の春に、関西の方から転校して来た。関西の人は珍しく、そして可愛かったので学校中の注目の的だった。

俺の部活の仲間が恵と仲良くなって、皆で遊ぶ様になり、其なりに楽しかった。

俺は前の恋人の事もあり、恵に好意は有ったが恋愛感情は持てなかった。それに俺は彼女のタイプじゃ無い様に思えたので、無駄だろうと考えていた。

いつも笑顔で接するけど、自分の感情を余り表に出さないタイプなので、本音が解りづらい人だった。

……

恵は、確か東京の化粧品会社に就職したはず、東京から戻ってきたのか……

高校時代の恋人が東京に行って、恵が東京から戻ってきた。


高校時代の彼女が恵を僕に逢わせてくれたに違いない!


勝手に都合の良い解釈をして喜んでいた。


直ぐに会いたい気持ちを抑えきれず家に行こうと思ったが、夜になるし我慢した。

その頃はスマホの無い時代、しかもアパート暮しで電話も付いて無いので、大家さんに頼んで呼び出して貰った。

電話に出た彼女の懐かしい声が嬉しかった。そして俺の休みの日に会う約束をした。


7年の歳月を感じない日常の何気ない会話が弾み、毎日が楽しく幸せだった。

彼女は、母親の知り合いの喫茶店でアルバイトをしていたが、俺の休みの日にはバイトの時間をずらして毎回会っていた。

その頃からは、もう高校時代の彼女の事を思い出す事も無くなっていた。


そして、ひと月ちょっとの過ぎたある日、俺の部屋で、自然に、必然的に結ばれた。

バージンだったのには驚いた。明るく社交的で、誰にも好かれていたのに……。彼氏居なかったのか?聞けなかったが、まぁ関係ないや!

俺を相手に選んでくれたと言う事なのだから。

メチャクチャ俺は幸せ者だと感激していた。


数日後、俺は当然の如く、恵に求婚した。


「恵! 結婚しよう!」

「二人で楽しく暮らそうよ!」


恵は一言「うん」と微笑みながら返事をした。

俺は、必ず彼女を幸せにする事を自分自身に誓いを立てた。


翌日、

恵が家にやって来て、「これ見て」と手帳の様なものを渡した。

何やら重大な事なのか?不安な気分になりドキドキしながら読んだ。

それは在日朝鮮人の身分証だった。

俺は顔つきと名前で、高校の時から、もしかして?と予想はしていたので驚きはしなかったが、恵にとってはずっと悩んでいた事なんだろうなと推測した。


「そんな事全然平気だし関係ない事じゃん!」「大丈夫!」と言って肩を擦った。

恵はホッとしたのか微笑んで、頭を肩に寄せてきた、俺は「大丈夫だよ、どんな問題でも、どんな事があろうともお前を幸せにするから!」と抱き締めた。

しかし、母親が結婚に反対していて、母子家庭で育った恵は、子供に厳しく躾てきた母親に逆らえなかっので落ち込んでいたが、俺は、「ゆっくり説得していけば大丈夫」と気楽に考えていた。


俺は、幸せを手のひらいっぱい掴んだ積もりだったが しかし、


開きすぎて、幸せが指の間から少しづつ溢れていたのを、その時は知るよしも無かった。


恵は、未だに口うるさい母親から早く離れて暮らしかったと友人に後から俺は聞いた。

俺にその事をちゃんと話していれば、俺が理解していれば、早く結婚していたのに!

残念でしょうがなかった。


恵が、「結婚式でチマチョゴリを着たい」って言ったから、母親に許して貰わなくてはと、恵には内緒で話し合いに行った。

母親は、俺の話を聞き、真剣に恵の事を思っていることを理解してくれて、そして「ちゃんと誠意を見せなさい!そうしたら許す。」と言ってくれた。誠意ってどうやって?疑問に思ったが、取り敢えずもう結婚する事に何も障害が無いって事で俺は 安心した。


少し余裕が出て来て、独身時代を楽しもうと友人と遊ぶ機会が増えた、彼女が俺に対する心持ちなんて、ちっとも考えたことが無かった。と言うか俺と同じで愛していると信じきっていた。


ある日

恵の友人が、知り合いのママさんがスナックを新装開店するので、オープン時女の子増やしたいってママさんに頼まれたので恵を誘ったらしく、俺に「やってみたいから一週間だけ良い?」って聞いてきた。

当然反対したが、凄く興味を持ったみたいで何度もお願いされた。過去のトラウマがあり、もう断れ切れず、「母親が許可したら良いよ」と言った。翌日「母が許可したよ」と俺に言い、母親には「俺が許可したから」と言って母から許しを貰っていた。後日確認して判った事だが、そんな嘘をついてまでやりたかったのか……。


そのままバイトをさせた。


それが最大の過ちとは知らずに!


一週間の約束が、もう少し続けて欲しいとママさんに頼まれ、続ける事を母親と俺が許した。


俺の仕事も忙しくなり、彼女も昼間は眠っているので、会う時間が段々少なくなっていた。


その後の経緯は全く知らないが、お客の1人を好きになったらしく、朝帰りもしていたらしい。後で彼女の友人から聞いた話では、時々男の会社の事務所に寝泊まりしていたそうで、年齢は知らないが、年上で、後で知った事だが妻子持ちだそうだ。スナックの女性を口説き、誰でも言う「離婚するから付き合って」と言った言葉を恵が愚かにも本気にしたらしい。

酒の魔力なのか?

一番知りたいことは、

恵が、俺の存在をどう考えていたんだろうと 言う事だ。

嫌われる事をした訳じゃ無いし何故なんだ?

その時は、俺に愛情なんて無くなったのか?せめて別れ話をしてくれてもいいんじゃなかったのかよ。


酷いよ。


当然、恵の友達らもスナックの客の話なんて真に受けるなんてバカじゃない!止めな!と付き合うことを反対したが、頑固な恵は、人の説得は聞き入れるはずもなく、返って意固地になっていた。


暫く、俺はそうなっていることすら知らずにいた。

母親に男と付き合っている事がばれて、恵はアパートから外に出るのを禁止された。

軟禁状態だった。

そして、

母親からの連絡で俺は事情が飲み込めて狼狽した。

嫌われる事をしていないのに、何故、他の男を好きになるんだよ。


毎夜悩み苦しみ眠れない日々が続いた。

10日過ぎた日、連絡があり母親と三人で会った。

恵が、「気持ちを整理させたいから、高校時代の一番仲の良かった友達の所に暫く泊まって将来の事を考えたい」と言ってきた。

母親は少し考えて「真さんが良ければいいよ」と言った。

娘の言葉を信じきっていた。

俺は絶対嘘だと思ったが、反対しても無駄だろうと思い「恵がそうしたいなら、反対しないよ」と言った。

決して諦めた訳じゃ無い。間違いに気づいて戻ってくれる事に賭けたのだ。

ニコリと笑った顔を思い出すと、悔しくて辛くて哀しい。

そして翌日、俺の車で待ち合わせの場所に行った。

恵は、「ありがとう、バイバイ」と言って俺と別れた。

それが最後の姿、言葉だった。


家出をしたのだ。


俺の車に乗って他の男に駆け落ちの様な事をしたのだ。


俺は毎日毎夜、奇跡的に本当に友達の所に行ってる事を願っていた。

願いも虚しく、音沙汰も無く月日過ぎていった。

やはり 駄目なのか……


涙が止まらなかった。

母親は騙された事で怒り心頭で、親子の縁を切ると言ってた。


三度目だ。


突然大好きな人が居なくなった。


俺は何をしました?

何でこんなに辛い思いを、しなきゃならないんだよ。………


前世に、

よっぽど悪いことをしでかしたに違いない。

恐らく女性に酷い事をしでかしたに違いない。

前世の大罪のせいで、今罪を受けているんだ

と 思わずにいられなかった。


俺は以来、他の人を好きになれず、又恵が間違いに気づいて戻ってくるかもと考えて、他の人と付き合うことも、結婚する事も躊躇していた。


俺は毎日の様に、偶然恵に出会う奇跡を願って、今まで通った事が無い道を車で走り回っている。

それは無駄な事なのは充分承知しているが、じっとしてはいられず行動している。


それは今でも続いている。


5年が過ぎた

未だ音沙汰無いのは、幸せに暮らしてんだろうと考える様になって、悔しく哀しい事だが、諦めの気持ちが大きくなってきた。

そして、

恵を忘れる為に結婚しようと考えた。

今まで好きになった人と上手くいかなかったから、今度は、俺を好きになって結婚したいと思ってくれた人と結婚しようと考えた…

その人を好きになる努力すれば大丈夫だろうと安易に考えていた。


そして、結婚した。


結果的に 間違いだった。

やる事が皆裏目になってしまった。


結婚して一年後


ある日の朝、いつもの様に朝食前に新聞を読んでいた、地方記事を見て、絶句した!


恵の高校時代の写真と氏名が載っていて、

見出しには


「幼児三人を殺害」


だった。


子供三人を絞殺してタンスの引出しに遺棄した。一週間後、知人の男性がアパートに訪ねて警察に通報した。

という内容だった。


無理心中とも、自殺を図ったとも書いていなかった。


育児ノイローゼ? 子供を殺害してタンスに隠したのは、ノイローゼの人がするか?

そのあと一週間その部屋で生活してたって事が信じられない。殺害して一週間後に通報されたってのは、男が一週間以上アパートに来ていない事が判る、恐らく3人の子供を相手に、仕事も出来ず、金も充分貰っていないだろうし、生活苦?男が来なくなったのは子供のせいで、邪魔に感じて殺害したのか?

名字が変わっていないから、結婚出来ていないのが判った。

やっぱりだ!バカな奴。


可哀想に、みんなを裏切った手前誰にも助けを求められず悩んだだろうな。

自業自得なのだけれど助けてやりたかった。

しかし

恵に面会に行く事を躊躇った。

結婚してしまったので、何も手助け出来る事がないから会っても余計辛い思いをさせると考えたからだ。

母親に会いに行ったが、引っ越ししていて連絡がつかなかった。


その後、彼女がどうなっていくのか、幸せに暮らせるのか。辛い生活してるのか、あれこれ考えずにはいられなかった。


友人の連絡先が変わってしまって、状況を知る術が無いのが失敗だった。

忘れようと努力していても、どうしても思い出してしまい、無性に涙が止まらなかった。

毎日の様に、胸がえぐられる様な痛みを感じ苦しく辛かった。


数十年も 同じ状態が続いた。


自分を裏切った残酷な人、でも忘れられないのは、罰の1つなのだろうか!


母親が引き取るのが普通なのだが、あの母親の気性なら、心配してくれた友人達を裏切った上、この犯罪は許すことのできない行為なので、きっと見捨てるだろうなと考えてしまう。

俺の理想としては、俺の所に助けを求めに来ること、次は、母親と故郷に、帰って1からやり直す事、最後は、恵の知り合いの真面目な人のお世話になり、誰かと婚姻する事。

だけど可能性は薄いだろう。

母親も友達も裏切った恵には、頼れるのは、今の男だけなので、又愛人のように生活しているのか、別の知り合いの人の世話?になっているのか?


どちらにせよ、どんな酷い人間でも頼らざる得ない立場なのだから、どんな環境でも生きていかなきゃならない、と考えると俺は悔しくて堪らなかった。

辛い人生を歩む事になって哀しい!


高校時代に誕生日を教えあった事があって、恵は「7月9日生まれなので 泣く人生なの」って言った事を思い出した。当たっちっゃたね!覚えてるかな?

結婚してなければ…… 助けに行けたのに!

残念でならない。

やる事全て裏目になって、 無性に自分に腹が立った。

状況が判らないって事は非常に辛く、拉致被害家族の人達のニュースを見て、あの人達の心情が良く判る気がした。


彼女と俺との接点は、もう、互いの名前と、俺の家だけだ。だから俺は、引っ越しはしないし、家も立て替える事を躊躇していた。

万が一会いに来るかも、と考えてしまう。

恵がやって来て遠くから見て家が違っていたら、戻ってしまうんじゃないかと考え建て替えず住む事にした。


3度目だ!3度目!愛しい彼女が突然居なくなり、会えなくなっちゃったのは


どうしても 聞いてみたい事がある!


何故 俺を捨てたことを?


後悔しているのかを?


きっと恵なら、首を微かに横に振るだろう。


……親を捨て、俺を捨て、友達を裏切り、子供を殺害する事が、俺と結婚するよりましなのか?

俺をそんなに嫌いなのか?

どう考えていたんだろうか?



不起訴になり釈放になるそうだと、友人が話していたが定かではない。その後どうなったかニュースも無かった。


今、何が悔しくって、悲しいことは俺が今でもこんなに愛してること、辛い思いをしている事を、恵が知らないことだ。


きっと自分の事を忘れて、他の女の子と幸せに暮らしている、って考えているだろう。

お前のは心神喪失じゃない!お金を充分貰えず働くことも出来ず生活に困ってなのか、

男が子供が鬱陶しくなり寄ってこなくなり、居なくなればと考えて殺害したのか?

どちらにしても、子供が邪魔だから殺害したんだぞ!

心神喪失なら死体を隠したりしないよ!

お前は隠したろ!

お前は欲望の為、親を捨て俺を捨て、今度は自分の子を三人も殺して……………


君も辛い人生を歩んで行くんだろうか。



恵。


いつか、俺と、何処かで偶然出会ったなら、

高校時代に出合ったあの頃の様に、

もう一度お話しようよ!


お喋りしよう!


俺はまだ諦めていないぞ!


何十年経とうとしても、恵を思う気持ちは変わらずあるのは、これも前世の罪に対する罰何だろうか。

僕だってこんな酷い仕打ちされて、怒るべきだし、早く忘れるべきなのは充分解ってるが、毎日の様に思い出してしまい無性に辛い思いをしている。


俺は死ぬまで後悔をして、恵の残像を追いかけて街をさ迷い続けるのだろうか?


忘れる方法を模索して数十年がたち、ある日、気になる女性に親切に接したら、辛い思いが薄れた様な気持ちになった。

そして、好意を抱いた彼女も俺に明るく接してくれた。

ユミさんと知り合い、何気ない会話が心地よく、ラベンダーに包まれている様な爽やかで安らかな心地よい感覚になった。

きっと高校時代の彼女に雰囲気が似てたからなのか、隣に居るととても心が穏やかになるのを覚えた。…

ひとめぼれのように好意を抱いていた。

彼女の事を考えている分、恵の事を思い出さなくなり、気持ちが楽になった。


もし彼女と特別な友人になれたなら、辛い思いをしなくて済むのかもと考えた。


好きな人に愛情を注ぎ、好きな人の為何かをして、心の支えになれたら、俺も幸せになれるのかな?と思っているのだが……

俺の願いは只1つ、安らぎが欲しいだけ、心穏やかに暮らしたいだけなのだが、ユミさんが俺を受け入れてくれたら嬉しいのだが、そんな都合良く俺を好きになってはくれまい。


又辛い思いをするのも嫌だし。

挨拶程度の会話だけで我慢しようかと思ったが、それも辛いか。


……

悩みは尽きない


でも、

哀しい思いをするのに耐えられそうにないから、もう努力する事は止めようと思う!


何もしないで、このまま月日がただ過ぎていくのを待とう。


俺は 前世の罪を 償う運命なのだから!

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業報 はな @kuma7328392

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