名の無き半妖 拾参 不要の少女と切れた弦

半妖は眺める

切り捨ての冷酷と無常観を


ある田舎での事

再三訪れたこの地

吟遊詩人が琴の音を

奏で歌う場所


彼が操る洋琴は

幾多の人を惑わせる

新たに持った六弦事は

人の心を踊らせる


彼はそれでも

自らを拙いと思い込み

出来ぬ悔しさを滲ませ

血の鍛錬を続けた


その努力を見てとったか

様々な六弦琴弾きが

彼に協力するようになった

その様はとても喜ばしい


中でも一人の六弦琴弾きが

彼に指導する様になった

何事も笑い飛ばす

とても清々しい男だ


吟遊詩人は思っただろう

「やっと私は」

「仲間ができたのだ」

「独りでは無くなった」


そうなれば人は

どうなるだろうか

居心地の良い場所を

見つけた人とは


半妖は眺める

人の部分で


私も結局の所は

人の血が流れている

半分の人の情念が

この地へ向かわせる


歌を聴きたいが為と

表面上の言い訳をし

私は彼の居る地へ

向かうのだ


忠犬でもなく

鳥でもなく

補佐役でもなく


少女の姿で訪れた


そうしてまた

花束を差し出した

「お久しぶりです」

「貴方の歌を愛しています」


吟遊詩人は言い放つ

「そう言われても困る」

「今までの私ではない」

「来るのは勝手だが」

「邪魔はしてくれるな」


そうして花束を奪い捨て

新たな仲間の元へ立ち去った

六弦琴を手に取り

仲間と笑いあった


その様子を見ていた

清々しい男は

なんとも言えぬ表情

それもその筈


清々しい男と少女の私は

面識があったから


別の世界で見てきた

動き絵の技術は

私も吸収していた

同士の一人として


また別の世界で

渡された音石は

構造を調べたが故

作り方を知った


それらを組み合わせ

歌の動き絵を贈ろうと

それに吹き込む役を

清々しい男に依頼していた


吟遊詩人が最も

喜びに満ちると考えたから


吟遊詩人の記念日に

間に合うように

醜い指を動かして

拙くも完成した


清々しい男は

それを見ていたから

どちらの肩も持てず

笑い飛ばす事もできず


花束に忍ばせたそれは

どうなったのであろうか

清々しい男が拾い渡そうとした

吟遊詩人には届いたか


半妖は眺めた

妖の部分で


吟遊詩人がどう思おうと

私には知らぬこと

作りし物など

只の記録にすぎない


少女の私はどうなったか


不思議なほど

零れる水は無かった

無表情だった

そして腑に落ちた


吟遊詩人は

「人」なのだ


魅力的で

仲間を求め

愚直であり

愚かなのだ


吟遊詩人が半妖を求めたのは

不安で淋しかったから

それを埋めたのなら

半妖は邪魔なだけだ


ああ、人とは

残酷で可愛いもの

思想と立場が変われば

欲するものなど簡単に変わる


それを理解出来たからこそ

私は吟遊詩人の前には

姿を表さぬだろう


おそらく私は、半妖の「人」は

吟遊詩人を愛していた


理解したくもない

した所で意味など無い


人と同じく

半妖とは

中途半端な生き物だ


眺めるだけの存在は

何も出来はせぬのだ

眺めるだけと決めた事が

できもせぬ半端な行為


人と関われば

思い知らされる


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名の無き半妖 哉子 @YAKO0919

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ