第2話〜狐の神とかジョーダンでしょ?

なんか外から雑音が聞こえる…


「妾の事すら知らずにこの蔵に入ってきたのか?良い良い。生贄は無知な方が食いごたえがあるからのぉ。」


その言葉を聞いて飛び起きた。いやいやこんなセリフ、ファンタジーでしか聞かないからビビったわ。誰が言ってんの?


「…え?私、食べられんの?うわぁ…やば。」


目をこすって辺りを見渡すと、蔵の中はホコリひとつもなく明かりさえもないのに明るかった。つーか獣臭い。ワンチャンでも飼ってんのかしら。


「嗚呼、起きてしまったか。」

「反応軽すぎじゃね?てかさ、そのふわふわした青い光なんなわけ?人の魂とか。」


腕に乗っていた青い光みたいなのをつんつん指でつついてみる。これがおでんだったら私、炎上してるかも。


「こやつらは妾の下僕、妾が作り出した物じゃ。気安く触るでないぞ。」

「ふーん、で、なんで私は裸なの?これドッキリか何かでしょう?着ぐるみちょーリアル。」


身長は2mぐらいの大きな狐が喋っている。綺麗な毛並みだけど、普通に怖いんだが。なんか地味に話通じてないしさ。


「どきり?今様の言葉か?」

「いまよぉ…?絶対にドッキリでしょ。ドッキリ知らないとか有り得ないから。」

「妾の体は贋作ではない。ふっ、ソナタは本当に無知であるな。さっさと頂いた方が良いか。痛くはせん、すぐに死に絶えるからな。」


その狐は着ぐるみなのに笑った。最新の技術って凄いわ、こんなにリアルな口が見えるんだから。まぁそんなことより…


「は?さっさと巫女服返してよ。無くしたら弁償しなきゃなんないんだし。つーか、寒いの!こんな真冬に素っ裸で居るのはきつい。」

「ここまで冷静なのは久しぶりじゃ、人間。」


青い魂をつんつんするのも飽きたしそろそろ本格的に暖を取りますか。


「はー寒いわーマジで寒いわー。」

「妾に触れるな、人間。食物ごときが神聖なる妾に触れるなど有り得ぬ事だぞ。妾は神、人間は畏怖し進行する存在じゃ。」

「ふーん、神なら服返せって話、着ぐるみなのにマジで暖かいわー。てかさこれテレビで放送できる?未成年の裸ってヤバいでしょ。」


私は着ぐるみのしっぽに抱きついた。ひゃー直接肌に毛が触れているからくすぐったい。


鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるけどアンタが服、奪ったんだからね。


「てれ…人間の世はまた珍妙な物で溢れておるのか。大正の時とは随分と違うようじゃな。」

「大正?そんな昔のこと知らないっての。暖を取らせなさいよ。こちとらアンタみたいな毛がないの。」


その狐は急に語り出した。自由人にも程が…人じゃなかったわ、中身おっさんでしょ。


「大正の頃、ソナタと同じような人間が居た。そして妾が封印されているこの蔵を開けたのじゃ。アヤツの冷淡な顔は覚えておる。妾はその時腹が一杯での。

食べはしなかった、しかし妾はこのままでは威厳がなくなると思いアヤツに妾の事を教えたんじゃが…それで調子に乗ったのだろう。」


ほへーそんなに昔に生きてる設定なんだ。


「その日から良くこの蔵に入ってきて、話を聞かされたもんじゃ。許嫁がどうだの家柄がどうだの…恋多き女だったわ。

最後に会ったのはアヤツが来てから何十年と経った日に、アヤツは来なくなった。人間は脆い。アヤツの子孫の家の守り神になったんじゃろうか。それは妾にも分からぬ。」


しんみりする話だわぁ…久しぶりに泣けてきた。これが涙活?


「ふーん、そうで…んん?ん?」

「急に慌ててどうした?人間。」

「これ…この感触!ガチの動物!って、今までの話マジだったわけ?」


毛よりも奥にある皮膚、着ぐるみだと布の感触が続くはずなのに完全に生き物の皮膚の感触だ!脈拍も少しだけ感じる…


「妾は嘘はつかぬ…ソナタ、名は?」

「蔵森ですけど。」

「蔵森、蔵森。ふっ、ふはは!なるほど。」

「えぇ…ガチでなに?」

「そうだ、妾に名をつける権利を与えよう。妾には固有名詞がない。」


無茶ぶり押し付けてくんなよ、そういう即興でやらせるの嫌いなんだよ。すぐに考えられるけどね。


「名前なかったんかーい。じゃ、トモコね。」

「そうかそうか、良いぞ良いぞ。妾はソナタの事を気に入った。服も返してやる、そこの下僕が着付けをしてくれるであろう。」


青い魂達が巫女服と下着を持ってきて着させてくれた。ちょっと幻想的で感動しちゃったわい。


「え、マジ?おぉ、この魂ちゃん達やっぱり可愛い。」

「つかアンタ最初は何こいつって思ったけど、案外良い奴かもね。」

「縁というものはそう簡単に切れるものではない。いつかは巡り会う…」


蔵の扉は開いて、私はすぐにその扉の外に出ていった。なんとなーく帰った方がいい気がする。こんなファンタジーな事が起きたんだから自分の直感信じてもいいよね。


「何言ってんの?それじゃあさよならー。」


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