狐の暇乞い
佐武ろく
1
もしこの気持ちに悶え苦しむと分かっていても――それでも僕は君に恋をする。
その瞬間――頭は真っ白。プツリと電源を切ったように何も考えられなくなって辺りの音すら聞こえない。関係ないって顔をしてまるで音の無重力空間にいるかのようだった。
出来る事ならこのまま――蛹にでもなってしまいたい。何も見ず、何も聞かず、何も考えず、何も感じず。このまま羽化することも無く。そのままでいい。そんな僕に同調するかのように世界は一瞬だけ止まった。でもすぐに僕を置き去りにして世界は慌ただしく動き始める。
だけどその間も、僕はただ一人立ち尽くしているだけだった。体を揺らされようとも僕の世界は動じない。何かを言われようとも僕の世界に音は響かない。
僕と言う人間は世界から切り離されてしまった。いや――と言うより僕が世界から一歩外へ出てしまったのかもしれない。それでも眼前に立つその人は、立ち尽くし抜け殻となった僕の体を必死に揺らし何かを言っていた。
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