第65話 吹雪の足音(夕刻)
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それは「あっ」と声をあげる間もないほどに突然で———。
細い指先から放たれた小さな髪飾りが、きらめきながら白い雪の降る虚空を飛んだ。
とても大切なものが、雪帽子をかぶった草の上をいとも簡単に転がり落ちていくさまを、私はただ茫然と見つめていた。
「そうねぇ———」
子供のように無邪気にほほ笑む面差しの上の、美しい
「あなたが代わりに消えてくれる?」
*
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「————リリアナ、どうした?」
ふと空を見上げた私に気付いて、公爵が足を止めた。繋いだ手のひらに強く力が込められる。
「……ぁ、いえ……。今、誰かに呼ばれたような気がして。でもきっと気のせいですねっ」
振り返れば、自分たちが付けた足跡だけが点々と続いていた。
公爵に手を引かれ、きらきらかがやく新しい雪を踏みしめながら歩いている。
一歩進むごとに地面がぎゅっ、ぎゅっ……。
「ふふっ。足元が鳴いているみたい。この音、楽しいですね!」
ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。
麻色のブーツを何度も踏しめる私に、公爵が頬を緩ませる。
「今夜は吹雪になるらしいから、明日の朝はもっと積もるよ」
「吹雪っ……?!私、初めてです。こんなに綺麗な空が荒れるのですか?」
「暴風が雪をはらんで、雪の嵐になる。リリアナは軽いから、すぐに飛ばされてしまうだろうな!」
不意に背中に大きな手のひらが当てがわれ、片手を繋いだまま、やんわりと抱きしめられた。
「雪が降りはじめたら、城の外には出るな……。絶対に、だ」
ふわっと公爵の『香り』に包まれ、恍惚として。
頭がふわふわ軽くなって、理性が持っていかれそうになる。
「……もう何があっても、私は、君を失うわけにはいかないのだから」
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《次話予告・吹雪の足音(早朝)》
いつも有難うございます!
春休み到来のため、更新がゆっくりになります><。
よろしくお願いいたします。
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