第257話


 戦後処理を行う前に農民兵を吸収した古参派の軍を周辺の落武者狩りや治安維持などに使い待機させ、直轄常備兵軍を2つに分けて1つを丹羽長秀に、もう一つを自分で率いてそれぞれ清州城と岩倉城を接収した。これによって信長は尾張の要を手に入れたのであった。対今川面では末森城を主城に下社城、熱田神宮を戦線として構築、伊勢方面に関しては下一色城や荒子城を使って牽制兼防衛、北は犬山城を接収するだけで尾張を統一する事となったのだ。それも、長秀を向かわせているため程なくして完了したのであった。

 この出来事を元に信長にとりあえずで従っていた信秀配下達は信長に忠誠を誓い、信勝は親族筆頭家臣としてその立場を安定させることになった。信長もその心意義を買っており、末森一帯の対今川戦線の責任者として信勝を任命、与力として柴田勝家ら旧臣を付けることで彼らの心持ちを配慮しつつ信勝に対して何も含むところがないことを内外問わず示したのであった。


 この行動を受けて奮起したものがもう1人いた。それこそ美濃のマムシと呼ばれた男、斎藤利政、後の斎藤道三であった。


 「ふふふ、まさか婿殿が一気に尾張を統一するとは思わんだな…。跡目争いや旧家臣達の扱いで手間取るかと思ったがワシが介入する必要もなく終わらせおったわい。ワシも負けておれぬな…。のう、利三?」


 斎藤利三、史実では光秀と共に奉公衆となっていたこの男も運命が変わったことにより道三に重用される家臣となっていた。


 「はっ、そろそろ揖斐北方城から出ていって頂きましょう。」


 現在土岐頼芸が揖斐北方城に詰めており、彼を追放することによって利政の美濃取りは完遂される予定であった。


 「うむ、美濃三人衆に連絡を送るのだ。時はきたとな。」


 利三は、短く答えるとさっと部屋を出て主からの使命を果たしにいった。


 「婿殿と協調すればこの美濃はより豊かに強くなれる。武田の山猿や六角の管領殿には好き勝手させぬよ…。」


 道三の目は既に周辺国への対応策で頭がいっぱいになっていた。それが足元を崩されていることについて気づかせるのを遅らせているとは知らずに。


〜〜〜


 1552年 10月頃 北条氏政


 「なんだと!?」


 父氏康が小太郎からの報告を聞いて驚いていた。俺は尾張から来たこの報告に対して驚く事は何もなかったが父はそうでもなかった様だ。


 「あのうつけと呼ばれていた男がこの様な結果を残すとは…!」


 信長の父信秀が歴史通りに今年1552年に死去した後、清州織田が機を見て離反、稲生の戦いが起こった。この戦を平定した信長はうつけから一転後継者としての頭角を見せつけたのであった。コトの顛末を知った氏康は自分の見る目が間違っていた事、息子の見る目が間違っていなかったことに驚き安心していた。


 「なるほど、お主があの男を贔屓する理由がよう分かったわ。これによって我らが北条は東海道を抑えたと言っても過言ではない。それに、今川、武田、斎藤、織田が争いどこが勝ったとしても我々に損はないしな。」


 「ええ、それに信長殿が勝てば我々はそれを口実に今川に対して強く出れまする。武田に関しては漁夫の利を掻っ攫われない様に注視する必要もございますが、それならそれで打つ手もございまする。」


 息子の腹黒さに頼もしさを感じた氏康はそろそろ任せる時が来たのか…と思い始め、いや、まだワシも舵取りが出来ると奮起し直したのはここだけの話であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る