第239話
「ほう、巷を騒がす大商人の今井殿が北条に用があるとは商談と言うことかな?北条で商いがしたいならばその場に行き手続きを踏めば誰でもできるぞ?それに、店を持ちたいなら許可状を貰うようにすればいい。特にこちらからできる事はないと思うが、まさかその程度の情報、お主が知らない訳が無かろう?目的はなんだ?」
俺は義堯の背中から顔を出して今井宗久を見つめて話しかける。まだまだ若いが力強さと和かな笑顔によって好印象を地 与える男だな。と思いつつも腹の中で何を考えているのやらという面倒くささを感じていた。
「へえ、私のことをご存知とは嬉しい限りにございます。そこまで知っているならば話は早いです。現在この畿内で北条様からの品を捌いておられるのはある新進気鋭の商家のみにございます。できましたら、私どもにも任せて頂けないかと思いまして。」
「其方に任せる利はなんだ?現在でも莫大な銭を生み出している。わざわざ其方に品を下ろす理由はないぞ。」
少し傲慢に、しかし事実を淡々と告げる。今井宗久の顔を見るとニヤリとしていた。そう、我が意を得たりと言う顔だ。
「はっ、新進気鋭の北条様の商家では入り込めないような情報や伝手がございまする。また、南蛮人との伝手もございますれば北条様の領に彼らを連れて行くことも容易いかと。」
そこまで知っているのか。自分の伝手と能力を惜しげもなく披露すると言う事は賭けているのか?
「なぜ、と聞きたいな。少なくとも北条領は関東でお主の本拠である畿内からは距離がありすぎる。勿論利はあるだろうがそれ以上に手間の方が大きいのではないか?」
「はっ、先程申した通り私めの伝手を使いまして北条様の情報を集めました。八幡の使いと呼ばれている次期当主である北条伊豆守様は私が賭けるに値する男だと思いました。韮山から駿東、現在関東に広げている政や、戦の才能、物事を考える視点。全てにおいてあのお方は傑物にございます。それに、他のお武家様と違って情報と銭というものの大切さをわかっておられる。」
じっとこちらを見つめる。
「で、実際に会ってみた感想はどうだ?思った以上に幼くて幻滅したか?」
「まさか!私の目に狂いはなかったと確信致しました次第にございます!北条お抱えの風魔には叶いませぬが商家として一番を目指そうと思えまするな。私の伝手を使うために畿内から出る事はまだ長くできませぬが、年に半分ずつ北条と畿内を拠点に活動すればどんどん大きくなれまする。」
自分ならば関東に大きな基盤をつくりながら畿内でも影響力を持てると断言した。
「なるほど、面白いではないか。今井よ、1月ほどならば京を空けられるか?」
「はっ、私の元に長い期間あけても任せられる人材がいくつかおりますので大丈夫にございます。」
その返事を聞いて俺はニヤリと口元を動かす。
「ならば共に来い、我らの船を使えば北条領まではあっという間よ。其方の実力が本当にあるならば少しの期間でも結果を残して、我に今井宗久ならば行き来の際に我が船を使わせても問題ないと思わせられるだろう?」
今井宗久はその言葉を聞いて破顔した。
「勿論にございます!」
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