第232話

 前回の231がミスで232を投稿していたので修正しました。


 次の日の昼前、氏政は京に在中の公家たち全ての前で帝に拝謁していた。


 「面を上げることを許す。」


 前久が帝の斜め前で帝の言葉を伝える役割をしている。帝に直接声をかけるのは恐れ多いことだ、という事である。昨晩の面会が特別なだけであり通常帝と直接言葉を交わせる者はほぼいない。氏政は少し下げた頭を上げながらも視線は下を向くようにして目線を合わせようとはしないようにした。


 「今年の祝いも見事なものを贈ってくれたことを感謝する。朝廷としてもここ数年の北条の忠節には目を見張っておる。今回はその忠節に少しばかりだが返礼の意味も込めて伊豆守に褒美を与える。」


 この一言で場が少しばかり緊張に包まれる。ある程度の話は出回っている上に公家の人事に関係することではないためピリピリとした嫌な空気感ではないがシンッと静寂に包まれたこの空間は独特のものであった。


 「北条伊豆守、その忠節に報いるべく安房守 武蔵守 下総守 下野守を授ける。また、従5位上とする。これに合わせて相模守の成果も評価し同様に従5位上とする。また、まだ正式に任命しておらぬが皇族へ親王任国を与え遙任するゆえに上総国、上野国の上総介 上野介を任せる。また、支配体制や管理運営などは伊豆守に一任するゆえ好きに差配する事を許す。以上である。」


 「はっ!拝命いたします。」


 この内容を知っていた上位の一部の公家以外は身じろぎしたり少し目に動揺を浮かべたりしていた。親王任国は有名無実となって久しい制度であり今となっては誰もが忘れていたからだ。今回北条が関東をほぼ一円支配したお陰で可能になったことだと皆が理解した。


 その後はつつがなく進行していき無事に帝への公式拝謁を終えることとなった。氏政は拝謁を終えてから多数の公家からラブコールを頂いていたため、近衛家において公家たちを集めたお茶会をする羽目になったのはまた別のお話。


〜〜〜〜


 帝から様々な官位を同時にいくつも与えられる事は近年ほぼあり得ない事であり幕府においても衝撃が走っていた。その中でも実際に北条まで向かった細川藤孝は矢面に立たされて苦境にいた。


 「どうしてあのような者たちに横暴を許したのか!?細川殿は何をしていたのだ!」


 「細川殿は幕府の、足利の威光を蔑ろにしに行ったのではあるまいか?」


 「これは我々幕府には従わないと言う意思表示ではないのか?」


 などと言いたい放題されていた。三好には実効支配を奪われ、権威を好きに使って自由に過ごせない鬱憤を吐き出す相手にされたのだ。これでも義輝のお気に入りである藤孝はマシな方であったのだが。


 「皆さま、私めがもう一度伊豆守殿の元を訪ねて真意を確かめてきまする。また、拝謁も必ずさせますので何卒。」


 その姿をみて藤孝が弱みを見せたと思い好きなように叩こうと周りがいきりたつがそれを止めたのは義輝であった。


 「わかった。藤孝、次はないぞ。行け。」


 少し気だるそうにしながらも目を爛々と輝かせた義輝をみて周りの者たちは二の句を告げることができなかった。藤孝が出て行った後に続くようにそそくさと周りの他のものたちも出て行った。そこに残った義輝はいつもの修練に戻るかと刀を手に持ち庭へと歩いて行った。

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