第231話
「しかし、我々は力を直接持ちませぬしその様なことを許すような文化でもございませぬ。誰かしらの力をアテにする事になるのであればより良い選択をするまでにございまする。まずは幕府の手が届かないところに支援者を作り、畿内に向けて影響力を出してもらいましょう。」
「で、あるな。」
前久はそのまま内裏で一晩語り合い、自宅に戻ったのは明け方前であった。
〜〜〜
前久が帝と話している頃、氏政は朝廷を出て風魔の拠点へと着いていた。
「お帰りなさいませ。若。」
女忍であろう従業員が出迎える。
「ああ、ご苦労だな。部屋に案内してくれるか?」
かしこまりました。と先導し始めるのでそれに政豊と義弘が続き、最後尾に義堯が配置する。その間に俺は着いて行き部屋へと通された。
「さて、皆のものもご苦労であったな。警戒は解いていいぞ。楽に座ってくれ。」
義堯が失礼して、と座ったのを皮切りに政豊と義弘も座る。勿論警戒は怠ってはいないのだろうが風魔の拠点である事もあり普段のようにリラックスできている。義堯が宿のものが持ってきた茶を一口飲んでから皆の分を注ぎ回していく。
「どうでしたか。内裏は。」
義堯が囲炉裏の火を調整しながら話の口を切る。
「帝に拝謁する事が出来たよ。そこで北条に関東のことを任せるとのお言葉を頂いた。かなりこちらに期待を寄せてくれているようだが、やはり中央に出張ってきて欲しいのが本心なのだろうな。そのあたりを突かれたよ。」
政豊や義弘はまだ口を出せる立場では無いため黙ってその話を聞く。しかし、彼らも後々には大きな視点で物事を話せるようにする為にこの話をしっかりと聞いていた。また、そのようなことを期待されていることも理解していた。
「それは重畳ですな。畿内は他の土地よりも米が多く取れ、物が集まりかなり豊かであるとはいえ朝廷自体は実を奪われ、武家の頭領は役割を果たしておりませぬからな。仕方ありませぬ。」
義堯が唯一氏政と同じ目線で話ができていた。というよりも、大名として広い範囲で物事を見る経験が生かされていた。関東にいる間や氏政についている間に学んだことや、知った考えを元に自分の考え方をアップデートし続けていたのだ。
「そういうな。足利としては三好とは絶対に相容れぬ故にどうにかしようと躍起になって周りが見えておらぬのよ。」
氏政は関東に居ないからだろうか、それとも気心が知れた面子しか居ないだからだろうか砕けた口調で気を張らずに喋っていた。片膝を立てて片手に茶を飲む姿は関東の居城ですら見せていなかった。
「小太郎、今日は何人だ?」
この遠征にも勿論ついてきていた小太郎に刺客やストーカーが何人かを聞く。
「はっ、様子を伺うものが数名居ました。多分ですが甲賀のものたちであるかと。一応排除致しませんでしたが、これからはどうされますか?」
「襲われない限り基本的には好きに泳がせておけ。相手を刺激しても面白いことにはならんだろう。もし、危害が与えられそうになったなら好きなように排除しろ。」
小太郎は頭を下げる。
「人気者ですな。」
「皮肉だな。義輝様の所に向かうのが億劫になるなあ。お前たち代わりに行くか?」
「若が行くと言ったのですから若が行くべきでしょう。我々はあくまで付き添いに御座いまする。」
「分かってるよ。言ってみただけだ。」
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