第224話

 「私は、日の本全ての民の安寧と日の本という国を外つ国から守る事にございまする。そのためには北は蝦夷の先にある孤島から南は琉球の先小琉球まで全てを日の本として統治する必要があると考えます。」


 ここまでを一気に言い切った。つまりは俺が天下を統一する必要があると伝えたようなものだ。実際は俺一人でこの日本全体を纏めることは至難の業、信長に本州周りの統一は任せるつもりだがどうするかな。


 「なるほど、では助言の方は如何に?」


 驚いた。喧嘩をふっかけたようなものだが何も気にしていないように振る舞っている。三好長慶にとって俺の言うことは細事とでも言うのだろうか。


 「…では、宗教が力を持つことをお許しになられるな。と言うことを伝えさせていただきましょう。この乱世において心の拠り所というのは大事です。そのために宗教があるのも理解できますが、民の安寧の為に説法を垂れるならまだしも私利私欲のために民を扇動し世の中に混乱を齎すなど許されることではございませぬ。実際我が領地での宗教の扱いは政治に関する事を少しでも行ったり金を集めたりしようものなら厳罰です。」


 「なるほど、我が父は一向宗に殺されたと言っても過言ではない。毛頭許す気持ちなぞなかったが、其方のお陰で幾分か気持ちが楽になったぞ。八幡様もそう仰られるのだ、我が世の誤りを正したところで何の問題も有るはずもなかろうな。」


 長慶がこちらをみながらニヤッとする。


 「八幡様も民の安寧を願っております。その為私に力をお貸しくださるのです。もしやり過ぎたとしても死した後に罰せられるくらいでしょう。それならば現世では問題ないという事、我々は我々が思う正しき世の為にただ頑張るだけかと。」


 長慶が大きく声を上げて笑う。松永は長慶の機嫌がいいからかずっとニコニコしているし、息子の義興は俺と長慶の会話のスケールの大きさに圧倒されて目を点にしている。十河一存は我関せずという風に振る舞いながらも長慶の様子を見て仕方がないという風に諦観の念が見て取れた。


 「それもそうだな。我らは我らのできることをやるのみだ。至言である。其方は本当に面白いな。我が直接来るのは間違っていなかった。領地に帰るまでに何か送ろうではないか。受け取ってもらえるかな?」


 「はっ、恐悦至極にございまする。筑前守殿からの贈り物となれば我が家宝になる事でしょう。」


 「そう固くなるではない!氏政殿が領地に帰ったとしても文を送らせてもらおう。良いかな?」


 あの三好長慶から文通のお誘いだと!?何故ここまで気に入られたのかは分からないが1歴史好きとしてはアツすぎる展開だな。


 「勿論にございまする。私も長慶殿との個人的友誼を結べるのは嬉しいことにございまする。」


 「あ、あの!私も文を送ってもよろしいでしょうか!」


 齢10歳の義興ができる限り背中を伸ばして大きな声で自己主張をしている。氏政としてはどちらでもよかった為、長義の方に視線を送ると頷き返された。


 「ええ、勿論にござる。我らは歳も近いのだ、私を兄とでも思ってなんでも頼るといい。私にできる限り力を貸そう!」


 氏政としては義興が死んでしまうとしても交流があること自体はプラスになるし、万が一どこかのタイミングで行き場所や過ごす場所がタイムパラドックスで変わることで生き残るのならばそれはそれで次代との繋ぎもできると予想していた。その後は時間も余ったと言うことで京料理を風魔たちに出して貰い皆で食事をしたのちこれからも手を取り合うことを約束して別れた。


 

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