第219話

 「北条には、皇族の盾として関東を一円支配して貰おう。」


 その一言で皆がこうべを垂れた。


 「つまり、全ての関東諸国の官位をお与えになり、その上で皇族の元に新たな秩序を形成なさるおつもりですかな?」


 帝が頷く。


 「今までは立場が上であったはずの国守が幕府が勝手に置いた守護に乗っ取られていた。しかし、実際には、その乗っ取った奴らは我々公家の荘園すら守れずに私利私欲によって我が民から搾取を続け苦しめているのだ。私も北条の話を聞くまでは今の体制自体が朕の子を苦しめている事に気づけなかった。彼らにこそ新たな形として皆の手本となる役目を与えるべきだと考えているのでおじゃる。」


 帝が自分の意見を言い切った。ある公家がここに置いて起きるであろう問題点を指摘し始める。


 「しかし、関東で秩序を形成されたとしてもこちらでの問題が解決されぬのではないでしょうか?」


 「帝は畿内だけでなく日の本全てのことを考えているのでおじゃる。我が身可愛さにこの場だけのことを考えて発言するのはどうでおじゃろうか?しかし、お主達の言いたいこともわかるでおじゃる。ここは帝が住む京、滅多なことでは攻められたりはせぬとは思うが…。」


 近衛前久が公家を牽制しながらも話の舵取りを取ろうとする。


 「三好…かのぅ。京を抑え、治安を維持しておるのも三好でおじゃる。足利の不快感を買うのは北条の件で確定しているのであれば、三好もこちら側に抱き込んで安全を確保するのはどうでおじゃりましょうか。」


 「たしかに、それならば。」


 周りの公家達も頷き合う。


 「北条には長年の忠君と善政による関東安寧を維持を認め、褒美として親王の元で関東の実質的支配を任せると言うことで異論はおじゃりませぬな?もし、幕府が何かを言ってこようとも北条は力を持った国守におじゃりまするから問題はないかと、関東管領となった上杉には個人的に縁を繋いでいる私から文を認めましょう。そして、足利からの圧力を避けるためにも三好を対抗馬として裏から操作すると言うことでいかがでおじゃりましょうか。」


 前久のまとめた意見が周りに通達され公家達のこれからの大まかな動きが固まった。今回のことで帝が北条を殊更気に入っている事が公家達の中で話題となり、北条との縁を持つ近衛派につこうとするもの達が増え公家達の中でのバランスも変わってきたのであった。


〜〜〜


1551年 年末


 「では行ってまいります。」


 共のもの達を連れ氏政は小田原前の港から最新の戦艦に乗り込んだ。それを見送るのは時間をわざわざ作って息子を見にきた氏康や綱成、幻庵などであった。やはり、どれだけ結果を残そうとも息子・孫・甥は可愛いものなのだろう。


 「うむ、体に気をつけるのじゃぞ。」


 氏康は腕を組み、隣に氏政を産んだ妻を侍らせながら戦艦へと渡る木板の前で見送った。


 「幸隆と義堯、義弘に政豊よ、若を頼むぞ!」


 綱成は筋肉隆々の腕を伸ばして順番に彼らの背中を叩いていく。そんな激励を受けながら各自が乗り込んだ後、最後に今回の海軍総大将である義堯が頭を下げ船に乗り込み、ついに京へと向けて出発したのであった。

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