第205話

「ほんに、碌な奴らではないな。とりあえず父上には佐竹や中山道などの最前線にでも送るよう進言しておこう。」


 氏政はため息をつきながら頭を振る。


 「心中お察しいたします。そして外部についてですが、佐竹に大きな動きがあるかも知れません。」


 小太郎が悔しそうに答えていた。


 「どういう事だ?詳しく話してくれ。」


 「はっ、佐竹義昭は義堯様が最初に訪れた後から特に動きを見せていなかった為注視していなかったのですが、最近になって軍を動かそうとしていることが分かりました。」


 「たが、そこまで切羽詰まっている様でも無いな。ということは侵攻先は我々ではないのか?」


 「はっ、佐竹の動きを見ていると北、つまりは岩城への侵攻を計画しているようです。そのため余り焦ってはおりませぬ。しかし、我々の諜報が失敗したのは事実にございまする。申し訳ありませぬ。」


 「いい、気にするな。身内や他の地域に力を入れさせていたのだからしょうがないだろう。それよりも岩城か、面白いことになりそうだな。小太郎も知っている通り2年後を目標に我々は中山道を攻め上がる予定だ。それを持って相馬の従属を迫るつもりだったが佐竹と伊達からの圧力を逃れるために我々と手を組む事もあるかな?」


 「佐竹が攻め上がり始めたら噂を流しましょう、岩城の次は相馬に来ると。そして、伊達やその傘下には奥羽の秩序が関東の者たちによって乱される。今こそ手を取り合い奴等を追い出すのだ、とでも。」


 小太郎がニヤリとしているのが雰囲気で伝わる。


 「いいな。それに合わせて我々も手を回して蘆名の食指を動かさせてやるか。伊達の弱みを突きやすいとでも。」


 2人で声を合わせてクックックッと笑い合う。


 「それならば早ければ来年の田植えの時期にでも二階堂に手を伸ばしても良いかもな。田村は相馬と手を組んでいるのだ。相馬を従属させたならばついでに付いてくる可能性がある。」


 「そちらも調べます。」


 「ああ、頼んだ。忍びの数が足りぬだろうがよろしく頼む。」


 「はっ」


〜〜〜


 秋の刈り入れ時に佐竹義昭は常陸太田城で、最後の大評定を行っていた。集まっている配下達は皆具足をつけており、出陣の準備は万全に整っていた。


 「皆のものよく集まってくれた!」


 義昭の言葉に皆がバッと頭を下げる。この場にいるのは真壁や長倉などの武勇に優れた重臣たちだ。頭の回る連中たちは義尚と共に国境に向かっており万一の際に備えてくれている。


 「これから事前に用意していたように岩城家に向かう!部隊には徹底して略奪や個別行動を許すなよ!では出立する!」


 佐竹の足軽は義昭直轄の2000以外は練度が高いとはお世辞にも言えない状態であり、軍記違反なんてなんのその、自分達の利になりそうならば戦闘時以外は部隊を離れて山賊まがいのことをするような奴らばかりだったため義昭は彼らの手綱をしっかりと握るように諸将に厳命する。


 「我々1500は後方に控える。先方は真壁率いる2500、後方は長倉が1000を率いて守るのだ!」


 義昭の命に従って部隊が侵攻を始める。佐竹軍が大勢集まっているが岩城は全く気にしていなかった。相馬のように乱世で輝くことも、内政で輝くこともなかった岩城当主は奥州人のように奥州以外のことには興味が薄く、鎌倉武士のようであった。その為諜報などがおざなりとなっており彼らが気付く頃には既に大塚氏 宗家の大塚政成が治める竜子山城は包囲され、余った部隊が岩城の土地に浸透し始めていた。


 

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