第202話

先遣隊が戻ってきて土地を調べる事ができたので同様に第二目標である苫小牧も調査しそのまま真っ直ぐ相馬の土地へと向かっていった。来る前に伝えていた商人たちの館を置く件についてだ。ここさえ許可を貰えれば今回の目標は全て達成したことになる。

 行きと同様に草野直清殿の館に少数の供回りを連れて向かった。もちろん先触れを出し許可をもらってからきていた。館の前につき、この前のように中に通されると見慣れない男が一人とその護衛であろう人物がいた。年は20代前半で上座にいるため多分相馬当主 相馬盛胤だろうと思い手を突き頭を下げる。


 「お初にお目にかかりまする。北条氏政様配下 里見義堯にございまする。本日はわざわざ足をお運びいただき恐悦至極にございまする。」


 義堯はどのような規模であろうと1大名である相馬盛胤の事を敬う姿勢を見せた。北条ゆかりの者たちが見たならば顔を顰めそうな光景だが、氏政やその配下たちからすればその程度で外交関係が良くなるならば安いものだと考えているだろう。


 「うむ、いかにも相馬盛胤である。我配下である草野直清から貴殿のことを熱心に伝えられてな。是非とも一度話をしてみたいと思っていたのよ。」


 相手からは嫌な雰囲気は感じない。寧ろ何かを狙って見定めようとしているような雰囲気だと気合を入れ直す。


 「そうでございましたか。私に答えられることであればなんでもお答えいたしましょうぞ。」


 「では、お主の主人は何を望んでいるのだ?名高い北条は先祖代々の悲願関八州の長まであと一歩のところだ。佐竹を降すのも時間の問題であろう?その後のことを考えて我々や蝦夷地まで足を運んだと言うのは分かる。もう一歩踏み込もうではないか。伊達と我らを天秤にかけて阿漕に稼ぐおつもりかな?」


 一気に場の雰囲気が重くなった。周りの相馬の人間たちにはこちらを睨みつけるものもいる。草野直清は全く気にしていないようで澄ました顔をしているが。


 「全くそのようなつもりがないと言えば嘘になりますな。稼ぐつもりというよりも民から搾取される分を減らしたいと我が主人である氏政様は考えておられます。」


 殺気がもれているものもいる中義堯は飄々と答える。


 「ほう、民か…。北条の者たちは皆恐ろしいほどに民を大切にしておるな。関東だけではなく他の領地まで気にするとは、面白い。余裕があるからこそできる強者の態度だな。」


 相馬盛胤はクックッと笑いながらじっと義堯を見つめている。今彼の頭の中では北条との関係をどうするかで高速回転していた。


 「氏政殿は我々と同盟を結びたい訳では無いのかな?もし、我々と経済的な同盟を結ぶのであればこちらも色々と便宜を図れるのだが。」


 考えた結果出した答えは北条を後ろ盾につけて利用しようという考えであった。その結果として相馬の中にある程度北条の手が入ってもいいとそろばんを弾いたのだ。


 「そこまではわかりませぬが、多分氏政様は同盟を望んではいらっしゃらないかと。それに結ぶとしても我々はまだ内側を抑えるのに手一杯にございますれば、まずは商人を通じて互いを知りながら関係を持つのがよろしいと愚考申し上げます。」


 「あい、わかった。もしよかったら氏政殿にこう伝えてくれぬか?数年後、もし可能であるならば我が息子をそちらの軍学校というところで学ばせてやってほしいと。」


 周りは何もその話を聞いていなかったのか。殿!それは…!とざわめいていた。


 「義堯殿ならばわかるであろう?氏政殿に息子を預けたところで我々への態度が甘くなったりはせぬし、北条の力を見せつける意味でも良い待遇で迎え入れてくれるだろうさ。惜しいことに我はもう考えは変えられぬし我が配下たちも伊達との戦いに明け暮れ北条に向かう事はできぬ。」

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