第193話

直勝との話し合いの後風魔と俺 直勝の秘密としてとりあえず動いてもらうことにした。他の大名連中にバレるとめんどくさいのは言うまでもないからな。


〜〜〜〜〜


 時は少し経ち、大評定では大きな議論も起こることがなくつつがなく進行された。さらに時はたち、春5月の下旬頃になった。


 各予定は程度の差はあれども問題なく進行していた。そして、蝦夷へと向かった航路調査隊の1次遠征が終わり戻ってくる頃だった。調査隊には義堯を俺の代わりとして現場指揮官として送りだした。彼らを迎え入れるために土肥港まで来て直勝と共に待機していた。


 「さて、では今回の報告を聞かせてもらおうか。」


 日焼けもして少しやつれた様に見える義堯だが目はギラギラしておりよほど楽しい時間を過ごしたのだろう。


 「はっ!まずは佐竹殿のもとに訪れた時のことですが…」


〜〜〜〜〜〜


 里見義堯は久しぶりに感じる磯の香りや波の揺れに興じていた。銚子をでて向かうのはまず佐竹の本拠地近くにある東海村の港であった。ガレオンで入港できるかは分からなかったのでとりあえずは新しく用意された安宅船と小早を使い港へと連絡し、現地の風魔配下の商人達から水などの必需品を補給していた。


 「潮風が気持ちいいな…」


 忙しなく甲板上は動き回っている中船長の隣で様子を見守っている義堯はそれを遠目に見ながら船長に全て任せていた。


 「旦那ぁ!暇ならば釣りでもしますかい!?どうせ数日は滞在することになるんでしょう?」


 船長が暇そうにしている義堯に向けて話しかける。海の男達はみな気さくで気持ちのいい奴らが多いため義堯は久々に伸び伸びとしていた。勿論言葉遣いが汚いと嫌う奴らもいるだろうが義堯は気にしていなかった。


 「そうだな!お前達の分の夜飯を取らなければならないからな!」


 義堯は隣の安宅船に移り、そこから小早に移って釣り糸を垂らし始めた。勿論その場には義堯だけでなく何かあった時のための海の男達が何人も小早にいたのだが、皆も釣りを始めていた。


 「海の上はやはりいいなあ、自由だ。」


 「そうですぜ!旦那も良く慣れている様で俺たちもやりやすいでさ!むしろ海軍として海の上を駆けている方が性に合ってるんじゃないですか!?」


 「そりゃ違いねえ!」


 勿論、義堯の立場上その様なことは難しいことが分かってはいたがそれを気にしないのだ。皆で笑いふざけ合いながら釣りに興じて居ると陸地から1隻の船がやってきた。


 「旦那ぁ!伝令にございます!」


 そう言って船を近づけ手紙を渡してきたので義堯は礼を言いながらそれを読み始める。そこには驚くべきことが書いてあった。


 そもそも、義堯は相馬 塩亀と伊達勢力下の土地で補給をするために蘆名から紹介状を貰っていた。現在天文の乱を収め伊達を支配している伊達晴宗は蘆名と縁続であり十分効果を発揮してくれるだろう。その途中で佐竹の様子を探れれば良いと思っていたら、佐竹当主、佐竹義昭が直々にこの港まで来て話がしたいため可能ならば待っていて欲しいとあるのだ。


 特に問題はないためその場で了解の返事をして使者として今きた伝令にもう一度戻ってもらうことになった。


 「旦那も大変ですなあ、まあ頑張ってくだせえ!」


 「今は釣りに興じましょうや!」


 先ほどから話を聞きながら爆釣していた船員達に負けないように義堯は気合を入れ直して陽が落ち始めるまでに一人1匹足りるか足りないかくらいまで皆で釣ることができた。

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