第170話
北条康虎
「何!?壬生が切腹して宇都宮の統制が取れなくなっているだと!?」
康虎のそばで驚いているのは風魔からの報告を受けた部隊長達であった。彼らの戦略予想では壬生は反対勢力を上意討ちとして意見を纏めて北条に恭順を求めてくると考えられていた。勿論そのようなことは認めず滅ぼすとしていたが、その予想を裏切って壬生はさっさとこの世界から退場してしまっていた。
「宇都宮の統制が乱れていると言ったが具体的にはどうなっている?」
「一時的に抵抗勢力の勢いが増しております。しかし、穏便派はその流れに乗らずに動かない姿勢のようです。」
「うーむ。ここで攻めてしまえば穏便派も抵抗派に回ってしまうか…。」
康虎は難しい舵取りをする事になった。ここで穏便派を殺してしまえばいいがそうすれば宇都宮残党の取りまとめが難しい。しかし、ここで時間をかけてしまえば余計な兵糧や隙を他の勢力の食指が動いてしまう可能性がある。
「政豊様が順調に制圧しているのですから多気城を落としてからの宇都宮城の反応を待ちましょう。ただ待つだけではなく、穏便派に伊勢寿丸殿に着くように投降を呼びかけるのです。こちらにつけば伊勢寿丸殿の元北条の庇護が受けられるとなれば…」
風魔の報告役が状況をまとめてこちらに提案をしてきた。康虎も同じことを考えていた上に他の部隊長達も反対はないようなのでその作戦で行く事にした。
「義弘に急ぐように連絡しろ、流石に那須も落ちればどうしようも無くなって降伏するだろう。」
「はっ!」
下野国自体は風魔によるプロパガンダで既に親北条派ばかりになっており落とされた土地で問題などは特に起きていなかった。兵士たちも解散させられることなく各農地に武装解除の上送られるか、戻ってもどうしようもないもの達は護衛監視をつけられた上で最寄の軍学校がある河越まで送られている。
「我々にできることはこれくらいかな?佐竹と蘆名は特に動いてはいないのか?」
「はっ、蘆名は那須との国境に500程度ですが軍を駐留させて圧力をかけてくれているようです。佐竹に関しては既に佐竹についている下野国の国人達の統制を強めている以外は特に動いてはいないようです。」
「そうか、蘆名に関しては何か礼をしなければならないだろうな。氏政様にこのことは?」
「はっ、まだお伝えできておりません。下野国とその周辺で動くことで忙しく…」
実際には下野国周辺だけならば動きようもあったが他の国にまで進出しており大幅に人手が足りているとは言えない状況であった。
「わかった。大丈夫だ。私の私見も入れながら報告書を上げる際に伝えようと思う。」
〜〜〜
里見義弘
義弘は宇都宮城を囲む本体を離れて那須領に侵攻を開始していた。房総衆は新兵だけではなく、河越野戦から生き抜いてきている歴戦の兵士たちが各隊長格に配置しており大将である義弘が若いながらも十全な戦力を備えていた。それに純粋な兵力だけでも圧倒しており、若いと言えども非凡な戦の才を持つ義弘の部隊は何も心配されていなかった。
その分期待されているものが大きいのも義弘は理解しており功を焦ることはなかったが重圧が両肩にかかっていることを実感していた。今は英雄と呼ばれる父は居ない。失敗をしたら全ては自分の責任となるのだ。
「塩生に蘆名が兵を集め牽制してくれているようだ。我々は祖母井を通り鳥山へ向かう。その後はジワジワと700の兵で締め上げていくのだ。わざと大田原城方面に抜けれるように道を作り、奴らが鳥山から逃げるのを手助けする。そして、そこに甘えて逃げた奴らを残りの300の兵で奇襲し殲滅するのだ。」
鳥山へ向かう最中に既に軍議で立てた作戦を再確認していた。
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