第144話

 「お呼びと伺い参上いたしました。」


 飯富虎昌、あの山県昌景の兄で史実でも信玄から厚い信任を受けていた武将である。


 「うむ、お主に1000の兵を預けるゆえ奈良井川支流の陣ヶ沢から別働隊として木曽福島を目指して動いてくれ。もう一隊を1000で分けて萩曽から向かわせたいがお前が任せられると思う部隊長はいるか?」


 信玄としては誰でもよかったが虎昌と気が合う将の方が良いかと思って聞いてみただけである。


 「であれば、馬場家を引き継がせた馬場信房はいかがでしょうか?奴は力を持て余しているようで血気盛んですが御屋形様の望みにきっと応えてくれることでしょう。」


 「ふむ、ならばそうするとしよう信房には虎昌から伝えておいてくれるか?準備が出来次第出立してくれ。我は皆に号令を出し鳥居峠へと向かう。」


 「はっ!」


 信玄は床几から立ち上がると軍配を持ち周りの側周り達に出陣の触れを出した。


〜〜〜


 虎昌はまずは自軍の兵に出立の準備をさせるために弟の昌景を呼びつけた。


 「昌景は割り当てられた1000の兵を本隊から離して纏めさせておけ。御屋形様のご期待に応えられるようにな。迅速な行動がこの作戦の要になるぞ。」


 「ははっ!我らの力を見せつけましょうぞ!」


 虎昌は昌景に場を任せた後、馬に乗って反対側に向かった。そちらには侍大将として50騎を任されている信房がいた。


 「信房殿、御屋形様の命でお主に1000を任せることになった。その兵を率いて萩曽から木曽福島へと向かうのだ。お主は平野から向かうのだから鳥居峠の麓からの道を抑えながら進むのだ。そうすれば御屋形様が敵を打ち負かした後に敗走する敵を挟み撃ちにできる。分かるな?」


 「はいっ!貴重な軍略ありがとうございます!」


 「我は山を越えることになるからな。お主達が主に活躍することになるだろう。よろしく頼むぞ。」


 「虎昌殿こそ御武運を!無事に帰ったら一緒に北条から流れてくる上手い澄み酒でも飲み交わしましょうぞ!」


 おう、と虎昌は答えながら自陣へと戻っていく。


 「我々は山を登り直接木曽福島城を狙わせてもらおう。残党狩りは任せたぞ…。」


 虎昌はただ信房に親切心で教えた訳ではなかった。信玄の元指揮には従っていたが武田の配下達同士で戦功を争い合っていた。独立心やより上位を狙う意思が他の国よりも強かったのが武田であった。そうしたのは信玄の配下であったからというのも大きい。


 「昌景!準備はできておるか?」


 「はっ、既に赤備え全てが揃っております。」


 史実でも武田の赤備えは有名だ。その中でも初代赤備えを率いていたのが飯富虎昌、甲山の猛虎と呼ばれた名将の配下達であった。家を継げない次男以降の男を集めて作った切り込み隊が赤備えであり普段から猛者を作るための訓練をしている姿は常備兵のような者であるとも考えられる。


 「我々が通るのは山道であるがここらをよく知っている山伏、つまり三つ者の配下を秋山からつけてもらっている。馬でも素早く通り抜けられる筈だ!我々はそのまま山を抜けて木曽福島城を制圧!その後に崩落城を落として完全に西信を支配するのだ!行くぞ!つづけい!」


 虎昌は信房が動き出す前にさっさと動き出して城を落として武功を上げに向かう。昌景はその動きを知りつつ今回の城攻めでどう目立つか、功績を上げるかを考えていた。


 「兄上、我は直属の150騎を率いて木曽福島城に着いたらそのまま崩落城へと向かおうと思います。そうすることで援軍を防ぎつつ挟撃の形に見せかけることができまする。」


 虎昌はこの言が崩落城攻めを自分の指揮のもと行ったという証明のためとは分かりきっていたが許可をした。


 「ふむ、分かった。ならば木曽福島城を1000で攻め落とした後、残った兵を全て率いてお主が大将として崩落城を落としに向かうが良い。我は傷兵と抑えの兵を木曽福島城へ残して待っておこう。」


 「あ、ありがとうございまする!必ずや戦果を上げて見せまする!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る