第61話
ダンッ! ダンッ!
ダンッ!
決められていた空砲の合図が聞こえてきた。
「水の堰き止めを壊せい!」
用意されていた火薬を詰めた壺の導火線に火をつけさせる。あらかじめ決めていたより後ろの方に皆を待機させておく。
バゴンっ! ズシャァァァァァ
向田川の本来の水量が大質量の兵器となって今川隊がいるであろう方向に流れていく。すぐに追うようなことはせずに本来の水量と流れになるまで待機させておく。これには酒井殿も血気盛んになることなく安全をとっている。
無駄な危険は取るべきではないのだ。ある程度落ち着くまでたった後、濡れてぬかるんでいる道からそれながら騎馬隊を蒲原城側に竜騎兵隊を対岸の方向から走らせていく。騎馬隊は酒井殿に任せて俺は竜騎兵と擬似竜騎兵を率いて下りていく。
今川隊らしき部隊の先頭が丁度渡河しようとしていたのだろう慌てふためきながら陣を川から離している。
「我らは敵が逃げられぬように退路を塞ぐぞ!発砲は極力酒井隊がいなくなった時を狙え!」
丁度酒井隊が鬨の声を上げながら乱れた敵の腹を食い破るように突撃を敢行した。今川義元が束ねる直属隊は方円になるように義元を囲っており居場所がわかりやすい一方で頑強な守りであるため、それ以外の雑兵に対してしか突撃が通らなかった。
そのまま酒井隊が駆け抜けるのを待ってから連弩を持った擬似竜騎兵達に矢を射掛けさせる。
「撃てい!味方に当てるなよ!」
今川隊はそのままジリジリと川から離れていき退路を塞がれ、どうしようもなくなる。俺たちの役目はここまでだ。後は相手の降伏待ちだ。
〜今川義元〜
恥を我慢しながら疾く!疾く!と馬をかけさせ続ける。川が目の前に見えてきて先に進んでいた騎馬隊が渡ろうとしている。もうすぐ!と思い始めたその時微かに何かの音が聴こてくる。
ダダダダダダ
なんだ???何が起こっている???また北条の未知の攻撃が!?
不安になり馬を止め、周りを確認していると川の方から茶色い塊が轟音をあげながら川を進んでくる。
「今すぐこの場を離れよ!!!!!水攻めぞ!!!!!巻き込まれたら命はない!!」
師が我と馬周りを連れて川から離れていく。岡部隊の後方もなんとか逃げ切ることができたようだが先に渡ろうとしていた100ほどは全て綺麗さっぱりに流されてしまった。
北条はここまで読んでいたのか。と戦慄していると師が呆然としている我を放っておき残った軍で我を守るように円陣を組む。このままではどうしようもないではないか。もう一度川を渡るのか?無理だ。どうする?
「敵襲!!!!!!!!」
伝令の声にハッとさせられる。今はそれよりも生き残るために行動しなければ!
「槍隊!構えよ!弓隊も盾もちをささえ敵の攻撃に備えよ!!!!踏ん張りどころぞ!」
ここで踏ん張ったとしてどうする?そんな自問自答をしそうになるのをグッと堪えて今できることに集中する。相手は騎馬隊のみで最初に奇襲を仕掛けてきた軍と同じ旗のようだ。
相手は最初の時と同じように固めているこちらには一瞥もくれずに守りがしっかりとしていない兵達に突撃をしていく。主だった将は全て守るために方円の中に入っている。そのためなすすべなくやられていく。
もう一度来るか!っと身構えていると対岸にいた別働隊が弓矢を撃ってきていた。
「盾を上に構えよ!矢がくるぞ!」
我は周りの小姓達に盾を構えさせその傘の下に隠れる。もう一度敵の突撃か!?と周りを見渡すも特に何もない。どういう事だ?我を討ち取ることが目的ではないのか?
「敵の天雷の武器での攻撃が来るかもしれん!気をつけろ!」
正直何を気にしろというのだという感じではあるがこう伝えるしかない。少し時が空いたが相手からは音沙汰も何もない。どういう事だ?相手から一本の弓矢が打ち込まれる。そこには紙がついており伝令が取りに行き持ってくる。
「我らはこれ以上攻撃はせぬ。負傷者を集めよ」
なんだと?どういう事だ?何を企んでいるんだ?
「殿、ここはいう通りにいたしましょう。攻撃をしてこないと言うのですから甘い話ではありますが乗らない手はございませぬ。すでに我が軍は壊滅状態であります。口惜しいことではございますがの。」
「分かった。部隊を固めた上で負傷者をまとめよ!そして相手の将に停戦交渉を申し込め!この戦は我らの負けよ!」
「…はっ!」
皆が口惜しそうにしている一方で安堵している者たちも多い。今回で彼我の力の差を思い知らされた気分だ。これではここ以外の仕掛けも上手く成功していないかも知れぬな。賠償金で済ませられればいいが、河東は完璧に手放すことになるな。
できる準備を行い勝算も有った、だが負けた。相手の方が何枚も上手で準備を怠らなかったと言う事だ。簡単に割り切れる事ではないが今回は目的は果たせなかったが最大の利益を取りに行こう。河東を譲る代わりに不可侵相互の起請文を交わせれば万々歳だ。従属は無理だが、敵対関係の解消は行いたい、その為ならいくつか不利な起請文も交わすことを視野に入れなければいけないか…
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