第23話

 俺は夜になる前に城門だけ破壊させて、もう一度城主本人に向けて文を撃ち込んでおいた。幸隆と勘助に強く勧められたため、脅しの手段として俺たちは別にお前達を圧殺することも可能なのだぞ、と圧力をかける。


 … つもりだったのだが、このように上手くいくとは思わなかった。城門が粉々になっているなー、と思って眺めたいたら、狩衣姿になった一人の男がこちら側に歩いてきた。


 百姓が逃げる前に武将の誰かが降るのかな、ラッキーくらいに思っていたら、こちらに通す前の身体検査をする時に、城主である土岐為頼本人だと分かって驚いた。


 大物も大物、里見家の身内であると言える土岐為頼だ。これでほかの有力国人達も降りやすくなるだろう。とりあえずは土岐為頼と話してみなくてはな。


濃い醤油顔のような男がやってきて俺の前で跪いた。


「土岐為頼、殿の下知に従い参上仕りました。この身はご随意にされて構いませぬが、城兵の命だけは何卒お救いくだされ。」


覚悟を決めた様子でこちらを見てきている。


「よくきてくれたな、正直に嬉しいぞ。手紙でも伝えた通り、お主の知行に見合った銭か米で俸禄を支払う。活躍すれば役職にはつけるし加増もする。だから前を向け。これから先のことを考え、その力を俺の元で振るってくれ。頼むぞ!」


そう言って、俺は為頼の肩をポンっと叩いた。

為頼は「ありがとうございまする」と返事をしながら、先ほどよりサッパリとした顔で俺のことを見ている。


「では、為頼は万喜城の残りの諸将に説明をして、里見に残る決断をした者は丁重に扱い、逃げられないようにしておいてくれ。後のことは幸隆から聞いてくれ。」


「はっ!」


よし、これで万喜城も手に入れたが、既に半月ほど経ってしまっている。今年の田植えに間に合わせる為には、1月以内に久留里城攻略を終わらせなければ…。いや?待てよ?いい方法を思いついたかもしれない。


「為頼?ちょっと聞きたいことがあるのだが、いいか?」


為頼は不思議そうな顔をしながら、


「はあ、私に分かることでしたら何なりと。」


「里見の久留里城は城下町の農民達を収容するのか?それとも放置か?」


「戦える兵達は収容し、少しでも戦力に致します。そもそも、久留里城まで攻められる場合は想定されてなかったかと。天然の川の防壁が御座いますので、そこを迎撃地点にして畦道を通ってくる兵士たちを集中して攻撃することで、鉄壁の守りを得ているはずです。」


「もし俺たちが攻めた場合、農民達は家屋に隠れているという認識でいいか?」


「多分そうなりましょう。」


「最後に、為頼は久留里城下の農民達に顔を覚えられていたり、お前の指示に従ってくれるか?」


「そちらは大丈夫でしょう。私は一応兵のまとめ役として調練を実施していましたので、顔馴染みも多いはずです。それがどうかいたしましたか?」


「いや、なに、田植え前に戦を終わらせなければと意気込んではいたが、別に戦中に田植えをしてもいいよなあと思ってな。」


「はっ!?真に御座いまするか?無謀では御座いませぬか?ここ万喜城周辺も我らが解放した上で、皆の指示に従うように頼んでやっとで御座いましょう…」


「実際にはうちの軍で農民達を守りながらの田植えだな。多分戦闘になるのは最終手段だろう。最初のうちは講和を見据えた予備交渉みたいな形になる。その間に田植えをさせるのだ。義堯と話し合って田植えの邪魔をしないことと、できた食料の配分を交渉で決めないとな。」


「はぁ、そんな上手くいきますかね?」


「上手くいくようにするのは幸隆や勘助などに任せておけばいい。適材適所だ。為頼も今は安房について教えてもらう為にここにいるが、隙間の時間で虎高や幸隆、勘助、光秀達から北条軍について教えてもらっておけよ。」


「はっ!」

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