第8話

1540年は一丸となった伊豆衆と共に新たな田畑を耕したり、黒鍬部隊の人数を500名まで増やして道の整備を急いだりなどしていたら、2度目の収穫まであっという間であった。


 今年は風魔に頼み上野国へ海野氏が武田にやられ逃げている所を保護させて、北条まで身を寄せるように口説かせた。そう、彼らの配下の真田幸隆をスカウトさせに行ったのだ。主君の一族も保護することを前提にゲットである。


 この1年間に風魔の者に頼み、長尾から日本ミントをパクってきて栽培を始めたり、三河から綿花をパクってきて布団を作ってみたりなど色々したが、大きくは動いていない。


 それに風魔に任せた椎茸と硝石が実用化の目処が立った。それに加えて韮山の中でも奥まった山の方に元々風魔が隠れていた里を利用して一大硝石生産所をつくった。そこは忍びとしての訓練を行うために風魔がまだ利用していた為すぐに取り掛かることができた。


 硫黄に関しては宇久須鉱山で採れる珪石と共に場内に運び込ませて、職人にガラス作りの素材にさせて、硫黄と硝石、石炭で火薬の作成を加治に秘密裏に任せている。


 それと富永に任せていたガレー船が一応形になった。まだまだ訓練は必要だが、帆を使った操縦と竜骨に関する知識は積めている。次はキャラベル船そしてキャラック船、ガレオン船が貿易船としての最終形だろう。キャラベル船を飛び越してガレオン船の絵と設計図もどきを渡して、今はなるべく早くにできるようにと頼んでいる。それと、下田の方に広い港の整備を黒鍬の半分を当たらせて急がせている。


 というのも1541年に豊後にポルトガル船が来るのだ。43年に漂流したポルトガル人がしょうがなく鉄砲を伝えたが、俺はそれに先駆けて交易で手に入れるつもりだ。できればフランキ砲とクロスボウも交渉しなければな。その時に土肥にいる船大工達に本当のガレオン船を見せてやりたい。


 風魔小太郎を呼び寄せる。


「小太郎来年の7月頃に豊後の港にポルトガルという外つ国から南蛮人の船がやってくる。そいつらにこの手紙を渡して下田の方に来る様にして欲しい。」


「は?ポルト…?よく分かりませぬが、なんとかして見せましょう。配下に佐助というものがおります。なかなか優秀なので任せてみます。」


「まあ、気にするな。それと並行してお主と朝廷まで出向こうと思っていてな。まだ親父に相談していないが、もし俺がいけなければ風魔で行ってくれないか?その時に配下の勧誘もしたい。」


「なるほど、若殿が直々に赴かれるなら是非とも向かわせていただきたいです。」


「よし、行くとしたら海から尾張を経由して京に向かうことになる。その場合甲斐と駿河で欲しい在野武将を手に入れたい。そこで敵地である2ヶ国に向かい、お主が話を通してきてくれぬか?その間に私は父と話をしておこう。」


「駿河や甲斐には既に人を入れておりまする。容易く接触してみましょうぞ。」


「よし、では一人目は駿河で今川の庵原という浪人家老に寄宿している片目が見えない男、山本勘助という男だ。そいつの軍略の才は親父達に引けを取らない。なんなら多目よりも上かも知れぬ。そいつには目が見えぬ事など気にしない、お前の才覚を俺の元で発揮して欲しい。そのための戦場は望むままに与えると伝えろ。そしてもう一人は武田では新参者ながら出世して周囲から妬まれているはずの三井虎高という男だ。もしかしたら既に出奔した後かもしれん。こいつも信虎が自ら諱を与えるほどの名将だ。武田と戦う可能性があり嫌だというならば、対今川や上杉など武田とは関係無いところで使うことを確約し、名前も変えなくていいと伝えろ。」


「そこまでの武将でございまするか。分かりました。必ずや説得してまいりましょう。」


 俺は俺の花印が入った書状を渡し、小太郎の身分証明書の代わりとする。そして、結果を待ちながら今年の伊豆の石高を纏め、父との面会を取り計らうように伝令を走らせる。


 最近は北条領内において道の敷設が進んでおり、韮山を中間地点として長久保から小田原まで昔ほど時をかけずに進める。


 さて、今年の収穫は…全体で言えば大体2倍になっている。それは去年増えた分も増えたのも加えてだ。なので18万石ほどになっている。今年は今ある田畑の整地と正条植えに力を注いだ為、新しい農地を増やすことはなかなかできなかった。

 しかし、その分綺麗に管理された田畑は腐ってしまうものが少なく、実も大きくたわわに育った為収穫量は大きく増えた。


 それと、俺の完璧な趣味だが、山肌で清流が流れる場所を利用して日本わさびを栽培し始めた。新鮮なわさびはすりおろしても辛味よりも旨みが強く、家康が門外不出にした理由もよくわかる。


 海の幸を刺身にして食べると美味すぎてやばい。最近のハマりである。長く利用するために粉末状にしたわさびも用意してある。練り物わさびは現代のわさびに似た感じだ。

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