【Ex】精霊の弱点

 赤、橙、黄、緑、紫、白に桃、様々なチューリップで描かれた地上絵キャンパスは圧巻だった。高原の澄んだ空と雪の残る山が回りを囲む。花畑の合間に日傘パラソルが咲き、鳥のさえずりやおだやかな風も色を持っているようだ。

 風車に見立てた展望台で楽しむ一人と一匹はそれぞれ違う意味で嘆息する。


「人間も酔狂なことを」

「手間と時間を考えたら、わりに合わないかもだけど、きれいだね」

「水やりが大変そうだな」

「噴水みたいな魔道具が活躍するんだって。えーと、ほうすいきって言うらしいよ?」


 看板に書いてある説明を指で差し、あの辺りかなと人差し指が白と桃の間に向けられる。


「わしがやれば一瞬だぞ」

「皆、ゲンさんみたいな隠し芸なんて持ってないよ」


 隠し芸とはなんだ、隠し芸はと憤慨するカワウソを放ってリノは両腕をのばす。


「気持ちがいいねぇ! 冬眠明けの熊とか心配したけど、なんてことないね」


 いつもなら田舎くさい発言をしおってと呆れたりなんだりする相棒の文句がない。

 リノは妙に高い位置にのぼりたがるゲンを見た。

 手すりの上にふてぶてしく陣取るカワウソは眉間を寄せているように見えなくもない。水のような青い瞳も挙動不審だ。

 今回の行き先を決めた時もゲンはしぶっていた。ふんぞり返るいつもの威厳はどこに行ったのか。

 楽しみにしていた景色も色あせて見える。


「やっぱり、来たくなかった? 熊は無理でも、猪や狐なら私でも何とかできるよ」


 リノが思い付く限りになだめれば、ゲンは否定するように頭を振る。


「……奴らは冬眠明けが一番獰猛なんだ。腹をすかせて飛びかかってくる」


 首を傾げるリノの瞳に、梁に絡み付いた影が映りこんだ。

 理解したのが速いか、襲いかかるのが速いか。蛇に胴体を締め上げられたゲンは色を失った。白い牙が襲いくる中、一筋の風が横をなぐ。

 リノの素手だ。目覚めたばかりの蛇の顎と頭を拳で押さえ込む。


「これ、おやつにする?」


 茶色の毛並みの下で青ざめたゲンは全力で首を振った。



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