華氏74

URABE

華氏℉から摂氏℃へ


アメリカで厄介なことといえば、英語が話せないとかチップをいくら払えばいいか分からないとか、そういうことではない。


もっとも厄介なのは気温だ。



テレビで天気予報を見ても「77℉」などと表示されるので、それは暑いのか寒いのか見当もつかない。しかもアメリカは南北で気温が夏と冬ほど違う。ウェザーチャンネルを見ていると、レポーターらがそれぞれ現地の天気を伝えてくれるのだが、


「シカゴは現在35℉です」


と言いながら、背後では雪がチラついていたりする。もしこれが「35℃」ならば、合成でない限りあり得ない光景だ。



まったく関係ないが、今年のロックフェラーセンターに飾られるクリスマスツリーは、メリーランド州で育った樹齢85年の巨木らしい。どでかいトレーラーに横たわる巨大ツリーが、ゆっくりとニューヨークへ向かって消えていく姿がウェザーチャンネルで紹介されていた。

あぁ、もう今年も終わるのだ――と、感慨深げにツリーを見送る。



そしてアメリカ全土の気温を基に、わたしなりの「℉から℃への瞬間変換」を編み出した。まず気温として重要な要素は、過ごしやすいかどうかという部分だろう。よって、一般的に過ごしやすいとされる気温帯(20℃から25℃くらい)については、℉から50を引けばおよそ℃になる。


厳密には、℉=℃×1.8+32というややこしい式があり、ここに気温を当てはめて計算することになる。だがわたしが編み出したコンフォートゾーンは、差があってもプラスマイナス1度程度なので服装や心構えに間違いは起きない。


しかし、先ほどの「シカゴ35℉」などは50を引いたら氷点下25℃となるので、絶対に違う。逆に30℃後半の猛暑となると、60以上を引かなければ大勢の人が死ぬ暑さとなる。よって、防寒着が必要な一桁前半の温度は、℉から35を引く。逆に熱中症対策が必要な30℃後半は℉から63を引く。


まぁ、こんなことを覚えるくらいならば℉の生活に慣れたほうが早いのだが。



そして天気予報だけならばおよその温度感はあるので、さすがに冬に真夏の気温を想像したりはしない。しかし、エアコンはどうだろうか。ホテルのエアコンが「74℉」に設定されており、これはいったい何度なのか想像もつかない。


賢い友人へ相談したところ、瞬時に℉から℃への変換表が送られてきた。やけに手際がいいなと感心していると、


「アメリカで買った体温計があって、毎回これ見てるんだよね」


と、賢くて金持ちのくせにずいぶんとマヌケ、いや物を大切にする一面が垣間見えた。――そんな面倒なことをしなくても、日本製の体温計は安くて早くて正確に熱が測れるぞ。



最近は入店の際に検温器で熱を測ることが増えたが、その店がもしアメリカ製の検温器しか設置できなかった場合、「100℉」という体温の人間を入店させるのか否かでトラブルが起きないとも限らない。


トラブルで思い出したが、イギリス人の友達に東京の真冬の温度を聞かれて答えたところ、目を丸くして驚いていた。「そんなに寒いの?」と何度も聞かれ、これは℃と℉を間違えているなと勘づくが、わたしは℉に直せない。そのため、彼女の中で真冬の東京は「氷点下15度を超える極寒の都市」だとインプットされ、それなりの服装を買いそろえると言っていた。



このように、数字というのは世界共通の数を表す記号および文字であり、気温や体温を測ってもそれが何度なのか分からなければ意味がない。

ところがアメリカでは、よりによって℃と℉があるとは、コンセントの形以上に迷惑な話だ。ちなみにアメリカでは、日本のコンセントがそのまま使えるので変換機は必要ない。


それでいくと「和暦」というやつも迷惑な存在だ。西暦でいいではないか。なぜいちいち和暦を採用するのか、どうもわたしは賛同できない。たとえば今から35年前を、和暦でパッと答えられる人はいるだろうか?

にもかかわらず役所は和暦を使いたがるから、外国人にとっては「複雑で不親切」というイメージを持たれるのだ。



世界共通の数字で表現される温度や西暦くらい、その単位を統一してもらえると安心して旅ができる――。そう息巻いていたところ、エアコンに「F/C」切り替えボタンが付いていることを発見。その結果、74℉は23℃であることが分かった。



(――ということは、天気予報を見ながら℉の気温をエアコンに入力すれば、即座に℃に変換されるということか)



手助けとなるヒントは、わりと身近なところに転がっているものだ。

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華氏74 URABE @uraberica

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