閑話 インタビュー 5 / 神々のリモート会議 2
「聖者様。今のお話ですと、伝説の弓聖モルグ様や剣聖ダッカス様は従者としてこの館に仕えていたのですか?」
そうだけど、シュテリアさん的になにか引っかかることでもあるの?
「でしたら、ミランダさんやメロウラさんのように歳を取らず、まだご健在なのでしょうか」
それはちょっと言えないかな。
「わかりました。伝説の偉人たちがまだこの世にいる可能性がある、というだけで記事のネタとしては美味しいです」
偉人なのかよ、あいつら……。
「その後、ギルマスのゴステロ氏に与えた聖杯はどうなったのですか?」
そりゃゴステロの奥さん……リザーディ種のアイラさんが娘のジュリアちゃんと一緒に一生大事に守り抜いたんだけど、実はあの後も一悶着あってね。またしてもゴステロ家族が主役って感じの騒動でさぁ。
「ちなみにどんな騒動なのか、お伺いしても?」
いやぁ、簡単で単純な話だよ。
聖杯の噂が他国にまで広がっちゃってね。あの後ちょっとして【帝国】貴族が襲ってきたんだよ。しかもとんでもないゲスト付きで。おかげでクシラナの街は王国と帝国の戦場になりかけたっていう話なんだけどね。
「いやいやいやいや! 騒動どころの話じゃないですよね!? もっとアットホームな話かと思ってましたよ!」
もしかしてこの話も聞きたい? 欲張りだなぁ、シュテリアさんったら。
□□□□□
―――創世神管理組合謹製仮想空間「ABYSS」にアクセス。
―――神IDをスキャンいたします。
―――リンク完了致しました。
―――「ABYSS」にようこそ、ウーヌースのファルテイア。
「ちょっとイザナミ。この前の転生者のことなんだけど」
「あら、慌ててどうしたのファルテイア」
「優雅にお茶してる場合じゃないわよイザナミ。あなたが連れてきた二人目のことよ、二人目!」
「えぇ、覚えているわ。最終列車に勝手に乗り込んできた挙げ句に、謝罪と賠償を要求するとか、次の人生は大金持ちにしろ芸能人がいいとか、最後には私の足を触ってきたあの下衆な男のことかしら?」
イザナミの淡々とした口調には明らかな侮蔑が含まれている。
「あなたがそんなミニスカートを履いて最終列車に乗ってるから、誘ってると思われたんじゃなくて?」
「は? 濡れ透け衣装で公序良俗に反しているあなたに言われたくないわよファルテイア」
「ウーヌースではこれ、普通なのよ?」
「ミニスカートも地球では普通なの。むしろ、相手がどんな格好をしていようと公共の場所で同意無しで触ってくるなんて犯罪以外の何物でもないわ」
「それはその通りね」
「で、その下衆がなにか?」
胸元くらいまで真っすぐ伸びた黒髪を指で梳きながら、イザナミは興味なさそうに言葉を続けた。
「転生させてくるんだったら、もう少しまともにできなかったの? あれでは私でも救いようがないんだけれど」
「あら。私はそちらの世界に転生させるための同意は得たけど、ファルテイアによろしくお願いすると頼んだわけではなくってよ?」
「……確かに前回のリモート会議議事録を見てもそうは言われてないわね。けど私はちゃんとした人間に転生しているのか聞いたわよね?」
「そうね。だけど私はその質問に答えたかしら?」
「……答えてないわ。あの時は微笑んでいただけね。だけど、二人目の転生は流石にエグいと思わない? まさか人でも獣でもなく、ただの木にするなんて。しかもあなた、異世界転生基本セットもつけていないわよね?」
「神に痴漢する下衆なんて、枯れて腐り落ちるまでじっとしていればいいと思うの」
「それには同意するけれど、私怨でそんな転生させてたら、本当に創世神管理組合に怒られるわよ?」
ファルテイアが詰めると、イザナミは羊羹を頬張りながら少し考え込むような表情をする。
「じゃあ、ちゃんとした人間をそちらに送るわ」
「ちょっとまって。わざわざこっちに送らなくてもいいのよ。あなたの世界で普通に転生させればいいじゃない」
「それだと面白くないわ」
「面白くしなくていいのよ。輪廻転生の管理は星神の基本業務なのよ? 世界線を超えて転生させるのは本当はダメなんだから」
「実はもう、一人送る手はずになっているの」
「ちょっと……。あなた、なにか別の目的があるんじゃなくて?」
「そんなに勘ぐらないでいいのよファルテイア。地球では死んだように生きている人間が多くて困っているの。生きたままでも早く転生させないと、こちらの世界の根幹が腐ってしまうわ。ところで一人目の南無さんは元気に吸血鬼しているかしら」
「ええ、生き生きしているわ」
「ほら。やっぱりあなたの所に送って正解だった。私の世界の中で転生してもそうはならなかったもの」
「だからって……。まぁいいわ、お笑い番組と交換だからね?」
「わかっているわ。ところで次なんだけど、また特殊な転生になりそうなの」
「木? また木なの?」
「いいえ、ちゃんと人間型の生き物よ」
「その言い方からすると普通ではないのね」
諦めたファルテイアは、ため息を紅茶で流し込んだ。
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