第27話「冒険者ギルドに行ってみよう」
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
野盗たちは一気に戦意喪失したらしく、我先に逃げていく。
「……あ……ぐっ……」
ルシアァァァァァァン!!
まだ息はあるみたいだけど保たないのは明らかだ。てか、殺す気なんてなかったのに、こんなに寝覚めの悪いことはない!
どうにかできないか!? 神様から貰った「なんでも叶う箱」を使う時が今なのか? しかし野盗ごときに使ってやるのも癪だし!
あっ、思い出した。俺の血にはアホみたいな蘇生力あったよな。
せっかく作ったモンだけど、鮮血の
というわけで俺は念じただけで大鎌を血に戻し、ルシアンの体にぶち撒いた。なんて便利でたやすくて安易な世界観。なんでも思い願うだけで効果しちゃうなんて、ありがたや!
俺の血にまみれたルシアンの体は、弓使いのモルグの腕が逆再生で修復されたように元に戻っていく。しかし千切れた内臓が生き物のように戻っていく様は、スプラッター映画のようで実に気持ち悪い。
「え? い、生きてる」
ルシアンは座り込んだまま自分の体をペタペタ触って確認している。服は破れているが肌には傷がない。完治! 完治です!
よし、今夜は十分に冒険した。早く街に行こう!
逃げるように後ろを向いて街に歩き出した俺だが、ルシアンが駆け寄ってきた。
「お、お待ち下さい!」
ルシアンは俺の足元に縋り付いてくる。これはイヤな予感しかしない。
「貴方様にお仕えさせてください!」
ほらきた。なんなんだよこの世界の人達は。どうして人に取り憑いて生きようとするんだ。自活しろよ!
「クシラナの街に向かわれているのでしょうか?」
「……」
「今の時間の門番には顔が利きます!」
「……」
「こう見ても身軽で、知ってる連中からは【夜鳥のルシアン】って言われてるんですよ」
「……」
「死にます」
「うぉい!? なに言ってんだ! てか短刀を首に当てるな!」
「だってオレを無視するじゃないですか」
ルシアン、お前無茶苦茶だな! 俺を脅迫して仲間にしてくださいって言ってんのか!?
「俺について来てもなにもないぞ。冒険者ギルドで買い物するだけだ」
「あ、ギルドにも顔が利きます。実は冒険者なんで」
「へ?」
「この辺りを荒らしてる野盗を潰すために潜入してたんですよ」
「……ウソくせぇ」
俺がなにを言ってもルシアンはついてくる。
よく見ると長身痩躯のイケメン。そして冒険者ギルドの受付統括でサブマスターをしてるマドロードさんと同じ様に耳が尖っている。とりあえず【鑑定】しとくか……。
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基本情報
【ルシアンナ】
種族:森エルフ
肩書:四等級冒険者
年齢:26
性別:女
身長:175メテル
体重:48キトン
状態:空腹・衰弱
ステータス:詳細はこちら
スキル:詳細はこちら
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「はぁぁぁ!? お前、女なの!?」
見た目が汚れすぎだし、胸にもケツにも肉がないので全然分からなかった! てかルシアンって言われてたのに本名ルシアンナなのかよ! そしてその身長でこの体重って、痩せすぎだろ!
「え、よくわかりましたね!? 連中から貞操を守るために男装してたんですよ!」
「本当に冒険者なんだな……」
「そうなんです! 信じてくれるんと思ってませんでした!」
嬉しそうに言うルシアン、いやルシアンナの顔は確かに女っぽいわぁ。男装の麗人ってやつですかー?
□□□□□
ルシアンナのおかげで街にはすんなり入れた。門番からは小声で「任務ご苦労」と声をかけられていたので本当に潜入捜査していたんだな。
ちなみに「隣の人は?」と尋ねられた時、ルシアンナは「オレを野盗から救ってくれた恩人だよ」と応じていたが、胴体を真っ二つにした殺人犯ですと言われなくてよかった。
「主様、ギルドはこっちです!」
ルシアンナは俺を冒険者ギルドに案内してくれた。もう彼女の中で俺は「あるじさま」になっているらしいが雇わないからな!
がやがやと人の声があちこちから聞こえてくる。街の酒場が盛り上がっているみたいだ。
この世界に転生して初めて人の生活圏に入れた俺はワクワクしているが、冒険者ギルドに行くのはちょっと怖い。
キサナが言うには冒険者ってのは犯罪を犯していないだけの最底辺の輩たちで、そういうのが集う場所が冒険者ギルド―――だと聞かされていたけど、実際に来てみるとそんなことはなかった。
印象はどこかの寂れた役所。
大きなカウンターに受付の女性たちが並び、冒険者たちは職安に来た求職者みたく待合所で自分の順番を待っている。ほんとに静かなもんだ。
「主様、買い物できるのはあっちですけど、冒険者じゃないと三割増しです。登録はタダなのであっちで冒険者登録しちゃいませんか?」
「俺が冒険者じゃないってよくわかったな」
「そりゃ、誰がどう見ても御貴族様のような服装ですし……」
この黒一色のシャツとスラックスが貴族に見えるのか。もっとギンギンギラギラした装飾が服に付いてるのが貴族じゃないのか?
「冒険者は認識票を持つんです。これです」
ルシアンナはシャツのボタンを外して首から下げたドッグタグを見せてきた。それよりも骨が浮き出た胸元が気になる。痩せすぎよくない!
「せ、聖者様!?」
お? そこにいるのは騎士風冒険者のダッカスと、俺が腕を治した弓使いのモルグじゃないか。
「どうしてこんな所に聖者様が……。お、おいルシアンナ、どうしてお前が聖者様とご一緒なんだ!?」
「なんだお前ら、知り合いか」
俺が尋ねるとダッカスはバツが悪そうな顔をして小走りで駆け寄ってきた。そして俺とルシアンナを交互に見比べて濃い西洋人顔の表情をコロコロ変える。
こいつぅ、ルシアンナと男女関係でなにかあったなぁ? 俺はそういうの目ざとく見つけちゃうぞー?
ちなみにモルグはさっきから目をキラキラさせながら俺を凝視している。こいつも信者になりそうでちょっと怖い。
この二人とうちにいるミランダ、そして逮捕(?)されたメロウラの冒険者パーティが初めての来客だったんだよなぁ。つい最近のことなのに懐かしく思えるのは、俺がちゃんとこの世界に居着いてるって証拠だな。
「そういや、あの女魔術師……メロウラだったか。彼女はどうなった?」
「ただの窃盗なら鞭打ちか期限付きの奴隷落ちですが、聖者様のものを盗もうとしたことはここのギルマスも知ってることですから、期限無しで一生奴隷落ちでしょう。一時的でもあんなやつと組んでいたと思うと吐き気がします!」
騎士ダッカスは顔を歪めて心の底から忌み嫌っていることを示した。
「奴隷か……。彼女はもう誰かに買われたのか」
「いえ、今頃は魔術で奴隷紋を彫られている頃でしょうね。あれをやられると一週間くらい熱が出るそうですから、売られるのはその後でしょう。ザマァないですよ、まったく!」
奴隷は異世界モノのセオリーだから制度を否定するつもりはないが「スプーン一個の万引未遂でそこまでするか?」という気もしている。
そもそもあの女が根っこから悪者だとしたら、神の加護に守られている俺の家に入れないはずだしなぁ。なにか事情があって金が必要だったのかもしれないし、そういう話なら責める気にはなれない。むしろ救ってやりたいという偽善者精神が芽生えてくる。……甘いのかな。
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