第5話「美少女(神)から謎の箱を受け取ろう」

「では最後に」


 イザナミ様は開いた手で俺の手を握った。暖かくて柔らかい手だ。


 こんな神々しい……っていうかガチで日本創生の神様の手に握られるなんて、俺の手はなんて幸せ者なんだろうか。現世だったらこんな美少女と目が合っただけで通報事案になってもおかしくないというのに。あぁ、ありがたやありがたや。


「南無さんにプレゼントです」


 イザナミ様が手を離すと、俺の手の中には小さな箱があった。


 女物のイヤリングでも入っていそうな小さな、そして華美な装飾が施された高そうな箱だ。


「それを開けるとなんでも一つだけ願いを叶えられます。本当に辛い時にはこれを開けてくださいね」


 願い事を「なんでも」「一つだけ」か。


「南無さんが死んだように生きていた今までの人生は終わりです。これからの人生はもっと彩られるべきだと思います(にこっ)」


 こんな美少女(神)に「にこっ」とやられたら、おじさん的にはへにょへにょだ。


「きっとその箱があなたの人生を彩ってくれると思います」


 へぇ、こんな小さな箱にそんな力が?


「この箱のことは転生先の星神にも内緒ですよ♪(にこっ)」

「……ふぇ?」


 変な声が出た。


 転生先にはイザナミ様とは違う神様がいるのか。


 確かにイザナミ様は日本神話の神様だし、海外に転生した場合、担当は海外の神様ってことになるのかな? だとしたら誰だろうなぁ。オーディーンとかゼウスとか? できれば女神様がいいんだが。


「南無さんの転生先は私の管轄外なので」

「はあ」


 この時の俺は、イザナミ様から頂いた名刺に書いてあった肩書き、つまり「創世神管理組合所属、第一級星神、」という言葉をすっかり忘却していた。


「話し込んでいる間に南無さんの転生先に到着したようですね」


 いつの間にか最終列車は停止し、出入り口の扉が開いていた。


 うーん。なんだか到着前の徐行運転や停車するときの揺れとか、そういう汽車とか電車の情緒がない感じが嫌だな、この転生システム。


 ここから窓越しに見える駅ホームには古めかしく懐かしい白い木製駅看板があり、そこに到着駅名が書いてあった。


 どこの国かなー。アメリカかなードイツかなーって思っていたのに、書いてある言葉は「ウーヌース」だった。


「異世界!?」


 思わずイザナミ様に向き直って凝視する。


 漫画やアニメの知識しかないが、トラックに轢かれたり過労死したり、バイクで走っていたらオーラ的なロードに落ちて行く所だよな?


「転生先って外国じゃないんですか!?」

「日本ではないでしょう?」


 ―――「この列車が止まった所があなたの転生すべき場所ですが……」「そこは日本ではありせん(にこっ)」


 イザナミ様は含みを持って喋っていたが、そういうことか!?


「いやいや、俺はてっきり海外のどこかの国だと思って! 地球じゃないとは聞いてませんよ!」

「ね? 言語理解の能力が必要でしょう?」


 イザナミ様の美少女スマイルは今ここに来て小悪魔の微笑に思えてきた。


「南無切葉さん、良き人生を」


 イザナミ様が微笑みながら手を上げると、座席に座っていた俺の体はなんの抵抗もなく吸い込まれるように扉へと飛び、そのままホームに投げ出された。


 コンクリ打ちっぱなしのホームに投げ出されてもなぜか痛くなかったけど、扱いが雑すぎる!! 


 そして音もなくアッ!という間に夜空へ飛んで行く最終列車。窓越しにイザナミ様とバカでかい車掌が手を振っていたが、去り方も情緒がなさすぎだろ。


 それにしても……辺りは夜なので真っ暗だが、地球とは明らかに違うと分かる。


 なんなんだよあの山の形は。ピラミッドを逆さにしたような山とか地球ではありえないだろ。どういう物理法則になってんだ、ここ。


 不安いっぱいで辺りを見るが電球程度の明かりが点いている改札はいいが、ホームの先は真っ暗な闇の中だし、どこを見回しても鬱蒼と聳え立つ奇っ怪な山と果てしない森しかない。


 どうしよう。


 まずは駅の待合室で夜を明かし、明るくなってから行動開始だな。上手くすれば駅員さんや待合の客から役立つ話を聞けるかもしれないし、RPGではスタート地点に教えたがりのNPCがいるのが定石だからな。


 キョロキョロしながら改札に向かうとそこには帽子を目深にかぶった駅員が待っていた。車掌さんと同じ格好だが、さらにでかい。そして無言の圧がヤバい。


 イザナミ様から受け取った切符を渡しながら「あの」と問いかけたが、早く改札を通り過ぎろと言わんばかりに手で「しっしっ」と追い払われた。サービス悪いな!


 仕方なく改札を通り過ぎて待合室を探そうとした俺だったが、予想外のことに「えっ!」と短い悲鳴を上げてしまった。


 なんと、改札を出た瞬間に駅の建物も電車のホームも、綺麗サッパリ痕跡もなく消失し、俺は真夜中の自然豊かな山の中にぽつんと取り残されたのだ。

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