最新型私除けスプレーその②


 でも本当は分かってたんです。忌避剤使わなくてもあのゴキブリはもういないって。


 ゴキブリがトイレから現れた日に、トイレの電気を点けっ放しにしておいたんです。走行性そうこうせいを利用する為に。


 詳しくは調べていないのですが、虫などが光に反応して移動する性質を走行性そうこうせいと呼ぶんだそうです。街灯に群がる餓が分かりやすい例ですね。光に向かって来る場合は正の走行性、光から逃げる場合は負の走行性と呼び分けるみたいで、ゴキブリの場合負の走行性が当てはまります。


 明るい場所に堂々と現れる事って、あんまり無いじゃないですか、ゴキブリ。いつも暗くてジメジメした場所を好んでて、物を動かすと姿が見えて阿鼻叫喚。が、うちの職場でのいつもの流れなんですけれど、思えばゴキブリって捕食者ではありませんし、食物連鎖のピラミッドに当てはめるとかなり下だと思うんです。生ゴミとか髪の毛とか埃とか、死んでるか動かないものばかり食べてるし、身体はちょっとした隙間に滑り込めるように細身ではあるけれど、頑丈では無いし。カマキリやクワガタみたいに武器を持ってる訳でも無いから、暗がりに逃げてもクモやネズミの餌になる危険は取り除けないし。逃げ延びる為に最効率化された姿を持っているという事は、超ビビりなんですね。「明るい場所に出る=捕食者に見つかって死」ってぐらい危険に捉えてるから、あのすばしっこさでどこぞの陰に隠れてしまう。って事は、明るくしておけば怖がって、侵入経路に使ったどっかの隙間から帰ってくだろ。


 そう考えて、トイレの電気を点けっ放しにしておきました。仕事から帰って確認してみれば、やっぱり影も形も無い。まあでも、万一居座ってた場合は今度こそ逃がさないよう+二度目が起きないようにと、殺虫剤と忌避剤を買って来た訳です。忌避剤は未然に防ぐ為のものだから、別にいない状態でも使っていいよねって、ちょっとドキドキしながらやってみたのですが。そしたら体質と合わず三分も持たずにノックダウン。でもこういう薬剤が合う合わないって、使ってみないと分かりませんもんね。勉強代と思えばまあ、無駄な買い物ではなかったか。


 それっきり使ってないのでほぼ新品なんですよね。誰かにあげよっかな。殺虫剤に至っては包装剥がしただけだし。部屋が汚い友人がいるので、今度いてみます。職場の誰かにあげてもいいですね。


 なので対ゴキブリ作戦は、会敵した瞬間が最高潮で、クールな頭脳プレイにより薬を要さず撃退していたものの、一応と買って来た忌避剤により私が大ダメージを受けるかつ強制ド深夜散歩を強いられたという、知的なんだか馬鹿なんだかよく分からない形で終了しました。


 思えば私のテンションが一番高かったのも、会敵中でしたしね。まさかのトイレ掃除中に現れたものだから、「何でぇ?」とショックを受けて後回しにしていると、トイレタンクの裏に逃げ込まれ殺すにも手が届かず、なら走行性を利用してやるとスマホ二台を用いトイレの入り口に座り込んだのです。懐中電灯のアプリを立ち上げた二台のスマホを構え、あらゆる角度からトイレタンクを照らしまくりました。炙り出されたゴキブリ野郎の逃げ惑う姿を捉えた瞬間、心で叫びながらゴキブリ野郎を照射します。


「正義のブルーライトが、お前を貫く!!!」


 あの日も深夜テンションでした。怒りもあって十五分程そのノリをキープし、逃げ惑うゴキブリ野郎を追い続けました。いい加減眠くなって来たしこんだけやったら十分だろと、油断せずトイレの電気を点けっ放しにし、お風呂に入って寝ました。そして①に戻るってワケ。やっぱり私には暴力による殺しか、常に部屋を清潔に保ちつつの走行性利用作戦が丁度いいみたいです。まあ薬代要らんと思ったら、安上がりでええか!


 流石に目にすると腹立たしいので、私除けスプレーと化した忌避剤は早めに誰かに譲ろうと思います。


 それでは今回はこの辺で。


 よい一日を。



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