イケメンの定義とは?


 ある平日。ついこの間まで年度末だったり新年度を迎えた事もあり、仕事が忙しくて結構お疲れなあなたは、長い連勤の最終日を目前に、少し体調を崩してしまいました。


 然し休めないのが世知辛さ。既にクタクタですがいつも通りに出勤し、仕事に励んでいました。お昼休みには普段はしない昼寝をしていると、それを見た後輩に、「大丈夫ですか?」と声をかけられます。この後輩とは、職場にやって来てまだ半年も経っておらず、あなたとは親密とは言えませんが、冗談を交わす程度には良好な関係を築き始めています。


 あなたはついぽろっと、疲れを口にします。〝長い連勤が明日で終わるのだが、少し体調を崩して寝ていたんだ〟。すると後輩は目を丸くして、「それは大変です。今日は早く寝た方がいいですよ」と、社交辞令に聞こえなくもない淡白な内容ながら、心配する言葉をかけてくれました。疲れが溜まっている事について後輩に話したのはこれきりで、以降はお互い仕事に戻っていきます。


 そして翌日。長い連勤の最終日。あなたはボンヤリしながらも、明日の休日を励みに頑張ります。仕事に集中していると、「おはようございます」と声をかけられたので顔を上げると、昨日の後輩が目の前に立っていました。あなたは早くから出勤していたので、後輩は今から出勤です。後輩は廊下を歩いている所に、仕事で出たダンボールを畳もうと腰を下ろしていたあなたと鉢合わせたので、少し驚いた様子でした。


 すると後輩は「ああ、そうだ先輩」と、重要な事を思い出したように低く言い背中のリュックのサイドポケットに手を入れながら、「これよかったら」とやや屈んで、サイドポケットから抜いた手をあなたに差し出します。その手には、栄養補給に重きを置かれたジュースが収まっていました。あなたはぽかんとしますが続く後輩の、「飲んで下さい。駅前のコンビニで買って来ました」という言葉で頭が働きます。


 まさか、昨日の自分の疲れているという言葉を覚えていて、わざわざ買って来てくれた?


 そう気付いた頃にはあなたは、驚きの余り大きな声が出ていました。両手で受け取りながら〝昼休みに飲むよ〟とお礼を言うと、後輩はにこりと笑い、荷物を置きに廊下を歩き去りましたとさ。


 何ですかこれって? いえ、この後輩の印象が気になりまして。


 この話とは、つい先日の出来事をほぼそのまんま書いたものです。差異と言えば廊下のシーンには、ある一人の人物が居合わせていました。その人物は〝あなた〟と後輩の遣り取りを偶然目にしていて、仕事の手を止めて〝あなた〟と歩き去る前の後輩に駆け寄るなり、「◯◯さん今めっちゃイケメンでしたよ!」って、テンションアゲアゲに後輩に話しかけるって事があったぐらいです。


 私には平凡な言動に見受けられましたが、皆さんはどう感じられましたか? 因みにこの後輩って私で、〝あなた〟も居合わせていたもう一人の人物も、先輩なんですけれど。


 居合わせていた方の先輩に駆け寄ってまでそんな事言われるなんて思ってなかったものですから超びっくりして、「ええ!? ジュースあげてるだけですよ!?」って声デッカくなりました。ジュースあげた方の先輩が居合わせた方の先輩に、「昨日疲れてるって木元さんに言ってたんですよ」と軽く状況説明してくれてました。居合わせていた方の先輩は経緯知りませんからね。


 補足するように私も、「(ジュースあげた先輩が)疲れてる所に連勤だそうですから」ってニコッと笑っといたんですけれど(愛想笑いじゃなくて「んな大袈裟な」って意味で)、居合わせていた方の先輩はそれでもテンションブチ上げでした。今の所知り合って一番テンション高かったです。どうやらお世辞じゃなくて本当に、相当イケメンだったみたいです。その瞬間の私。💩クソとか書きまくってるしカスだのケツだの下品な言葉もそれなりに繰り返してるし、そもそも女性なんですけどね、私。皆さん忘れてるかもしれませんが。いやホントに。個人情報を流出しない形で証明出来るのならマジで一回やっときたい。この日記の一話目の内容忘れて、職人とかやってそうな古風な男性と思ってる方いたでしょ絶対。ふざけてんのか。体重増えて落ち込んでる回とかもあっただろ。


 因みに先輩方はどちらも女性です。私みたいに終わってる言動とか絶対しないだろうなって感じの。女子って感じの。もし学生時代に同じクラスだったら、絶対にグループが違うタイプの方々。いや私特定のグループに属してませんでしたわ。基本は一人で好きにしてて、誘われたり気が向いたままに転々としてました。別に授業で班作る時どこに放り込まれても平気でしたし、黙ってても皆勝手に誘ってくれましたしね。座学は出来たので、誰と組んでも自己解決出来ますし。たとえになってませんでした。クラスメートって陰キャとか陽キャって言葉で、雑なくせに強力に互いを枠に押し込めがちですけれど、「木元さんは木元さん」って、何か別枠扱いだったもんで。ギャルもオタクもヤンキーも、「木元は木元」で謎の共通認識。


 話を戻しますと、疲れてるんだよねって聞いて何か買って渡すって行動自体は、この先輩だからやった訳じゃありません。子供の頃からの性格です。じゃあちょっと何かあげようかなって。気を遣わせないように安いやつでって。そんだけ。疲れてたら誰だってしんどいですし、知っててほっとくのは良心が許さないし。だから自己満です。同じ職場内で既に別の方にもやってますし、前の職場でも、学生の頃からも普通に。なのでイケメンなんて言われてめっちゃ驚きました。気分はご機嫌です。ピンとは来ないが兎に角めっちゃ褒められた。ウヒョ。


 まあでも、何気無い遣り取りを覚えてくれていて、かつ気を配って貰えたら、誰だって嬉しいですもんね。そういう意味で居合わせていた先輩も、イケメンという言葉を遣ったんでしょう。何でチョイスがイケメンなのかは不思議ってか面白いですが。皆ァ! モテたかったら気が利く奴になるといいらしいぞ! 気が利く女は、いい男! いや結局おかしいじゃないですか。まあ兎に角褒められたのでハッピー。ジュースあげた先輩も、喜んでましたしね。ならやっぱ万事快調! イケメンって、よく分からん!


 てな事がありました。


 よい一日を。木元でした。



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