エピソード18 忍びよる影
王都の街中を歩く男と少女の姿があった。
男は、街の人たちよりも頭ひとつ抜きんでているほどの高身長。
隣の少女は神父とは真逆──成人男性の腰ほどしかない低身長。喪服を連想させる黒色の
可愛らしい顔立ちと
神父とゴスロリ少女。アンバランスな二人が、この王都の中をしめやかに進む。
「”アディシェス”の情報を頼りにこちらまで来てみましたが、さて……果たして”器”は
まるで蛇のような細い目で、行き交う人々を眺めながら肩を
「”ヌート”……人間、多い……」
少女はフリルの多いスカートの裾を握って、静かに訴える。すれ違う人々から怯えている様子。相変わらず感情表現が少し
不安よりも不快──たしかに、彼女にとってここは精神上あまりよろしくない。少女の頭を撫でながらあやす。
「”イーア”、我慢してください。
あくまで柔和な笑みを崩さない。眉だけをハの字に作って微笑んだ。
「がまん、がまん……」と少女は呟きながら神父の足にしがみ付く。
「ですが──」
そんなこと、彼らは
「ここに”器”が居ようが居まいが、我々の計画を進めるだけです。もうすぐですよ」
これまた蛇のような怪しい笑みを浮かべて歩む。
向かう先は教会。そこに用があるのだから──
王都アラバスタには幾つかの教会が存在する。他宗教が混同することも良しとする方針であったが故である。
その中で
他宗教も信仰心ある者たちは
場所は北区。堂々と
「いやはや、実物を見るのは初めてなのですが、これ
巨大な門を
内部は広大で美しかった。信者を座らせる長椅子が左右
天井からの日の光がガラスによって
照らされた壇上には、ひとつの玉座があり、若い男がふんぞりかえって座っていた。
「何者だ!」
コツ、コツ、と靴底を鳴らして聖堂のど真ん中を進む。通路となっている道に、兵士が立ちはだかる。
兵士は神父の
見たところ神父なのは間違いないが、どこの宗教の者かまったく検討がつかない。それに足元には少女も連れている、おかしな二人組──
「……門はどうした。閉まっていたはずだが」
本来なら、信者たちを迎え入れるのが常。だが、今日に限っては
神父はニンマリと笑みを浮かべながら一礼した。
「これは失敬。我々もこちらには少々用がありまして。無理を言って通していただきました」
「馬鹿な……」
あれだけ
神父は「しかし──」と繋げた。
「迷える仔羊をあんな冷たく追い返しては、
「──今日は
痛いところを突かれ、兵士が
ところが彼にとってはどうでもいい話である。神父が口を開かせた。
「曰(いわ)く、メタトロニオスとは『玉座に
「? なんの話を──」
「
「貴様ッ……!」
口調が変わって告げられた内容に、兵士は慌てた。さすがに聞き逃せない。
明らかな失言──というより下手をすれば
「ヌート、言いすぎだよ……?」
「ええ。ですが、こうでもしないと相手にしてくれなさそうでしたので」
少女が
二人をとり囲むのは、なにも兵士だけではない。この宗教ならではの祭司服を纏った
うちの一人が無礼千万と激怒して、
敵意に囲まれるも、神父は顔色一つ変えずにその場で
「遅れて申し訳ない。お初にお目にかかります──エルウィン・アラバスタル・ウートガルザ次期国王陛下殿。我々は、貴方様を迎えに参ったのです」
視線の先には、奥に佇む玉座──そこに座るのは、学園から抜けだしたエルウィンだった。
彼は何も言わず、ただ来訪者を品定めするかのように眺めているのみ。
「──ッ!」
ふいに、一人の兵士が背後から襲いかかった。
それもそのはず。明らかな挑発行為。門を抜けてからこの神父は、
土足で聖堂にあがりこみ、あまつことさえ崇め
しかし──
パチッ。
神父が小さく指を弾いた。
「────」
聖堂中に乾いた音が響き渡ると、剣を振りかざした兵士の動きが止まった。
否、その場にいる全員が動きを止めたのだ。
「ほう……」
ここで初めてエルウィンが興味を示すように声をあげる。
王子に見られる
何が起きた。
ほかの兵士や僧侶も同様、彼に向けた敵意そのものが
振れない剣は不要。カランと音を立てて兵士は剣を手放した。
「奇妙な術を使う。それは何だ。魔法か?」
見事、王子から興味を持たれた。
兵士たちに行った挑発行為は、このためにすぎない。
「詠唱を
エルウィンの問いに、彼はメガネをかけ直しながら答える。
「故に、誰もが
その言葉を耳にして、全員が戦慄した。
精神に関与する魔法は確かに存在する。”ケセド”の魔法を応用すれば
『手品の類い』だと言ったが、ありえない。あってはならない。この世の不可解な現象は、すべて”魔法”や”奇跡”で収めなくてはならないのだ。
ある考えがよぎる。
魔法ではない”外法の力”なら可能にする術がある。かつて魔王と共に世界を脅かした存在──”悪魔”になら。
今にして思えば、門番にもこの怪しげな術を使ったに違いなかった。
「面白い。名を聞こう」
「ええ、
隠れている
「そして我々は、
「クク、なるほど……」
名前を聞いてから、神父の柔和な笑みに対して不敵な笑みを浮かべる玉座の王。
いち兵士が
「今日は
護衛
ゴーン、と聖堂内に
まるで二人の間を
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