第28話 犬人族のお姫様
野良イヌに縄張りを荒らされるのを心配したオレは、急いでギルドへと戻りました。
するとそこにはマントを着た三匹のイヌたちがいて、驚いたことに──
人間の姿をしていたのです!
おそらくオレと同じ人間になってしまう病気のイヌたちなのでしょう。
いままでまったく謎だったこの病気でしたが、彼らはその原因を知っているのかもしれません。
それでしたら……
「オレもみなさんと同じ人間の身体になる病気なんです! 治し方を知っていたら教えてくださいっ!」
元の柴イヌの身体に戻れるのなら、なんだってしたいです。
「なんだこの人間は!? さっきから病気、病気と……無礼な奴め」
「姫様、こいつ頭がおかしいのかもしれません。無視しておくのがよろしいかと」
「うむ、
ムッ……こっちは真面目に頼んでいるのに、ずいぶんヒドいことを言いますね。
なんですか無視って、腹が立ちますっ!
「やっぱりあなたたちは野良イヌですね? ここはオレの縄張りです、病気の話をしてくれないのなら出て行ってくださいっ!」
「なっ? 姫様に向かって野良イヌとは何だっ、この
あっ、二匹のオスイヌが剣を抜きました。いいでしょう、縄張りを荒らすというならケンカ上等ですッ!
「待て待て、やはりこの人間は面妖じゃ。人の匂いがせん……そして確かに犬の、それも動物の犬の匂いがする──おぬし、一体何者じゃ?」
「柴イヌのコテツですよ、ちなみに飼いイヌですっ!」
「柴犬?……その様な同族は聞いたことがないの。一応聞くが、おぬしは獣人ではないのだな?」
「だから柴イヌですよ、病気で人間の姿になっているだけです。それよりあなたたちこそ誰ですか?」
「
獣人? そういえばタリガには獣人という人からの依頼があるとモニカさんが言っていましたね……
じゃあイヌでも人間でも無いということでしょうか?
「うーん、よくわかりませんが、ならなんでイヌの匂いがするんですか?」
「それはいま申した通り、太古の昔に神によって犬から造られし獣人だからじゃ。犬より進化した存在と言ってもよかろう」
むう……全然わかりませんっ!
「まだ
すると人間の少女のようなメスイヌは、マントを脱ぎ──
ええーッ! イヌの耳と
「どうじゃ、これで得心──って、何をしておるか!」
ほ、本物ですっ! 触った感じもイヌのものそのままですっ!
オレの病気にはこんなものはありませんでしたが……
「さ、触るなあっ! あ、尻尾はよせっ! というか、おぬし、いつ妾に近づいた? この妾が全く気配を悟れんかった……」
「姫様あっ! おのれえっ、無礼者があっ! 斬り捨ててくれるわッ!」
「よせっ! 妾は大丈夫──」
うるさい野良ですね、イヌパンチっ!
「へびゃっ!……」
「なっ!? 気絶した? どういう事じゃ! なぜ獣人の精鋭が素手の一撃で
そうだっ、体毛は!?
「体毛はどうなっているんですかっ!? 耳と尻尾と同じシルキーな毛が生えているんですかっ? 見せてくださいっ、ハダカになって見せてくださいッ!」
「ば、馬鹿なっ、裸なぞ見せられるかッ! 妾に体毛は無いっ、犬の毛が残っているのは耳と尻尾だけじゃ!」
「じゃあツルツル?」
「うむ、ツルツルじゃ」
ふむ、そうですか……
しかしなるほど、これでようやく分かりました!
つまりこの人たちはイヌが狼さんから進化したように、イヌから進化した者たちということなのでしょう。
「そうですか、獣人ですか。病気ではなかったのですね……」
「う、うむ。だがおぬしが病気というのはどういう意味じゃ? 柴犬というのも気になるの」
メスイヌにそう
「ぬぅ……ますますもって面妖な話じゃのお。それに病気というには根拠がまるで無い。犬が呪いにかかって人間の姿になったとも考えられるが……いやしかし」
「それはあり得ませんわ。私は
モニカさんとリリアンさんが帰ってきたようですね。
なんかリリアンさんの
「ほう、おぬしは呪術師か。ところで何者かの?」
「こんにちは獣人のみなさん。私が当ギルドの支部長を務めさせて頂いているモニカ・ローチスです。今日は依頼の件で?──メガネクイッ」
「来たなっ! ついに来たーッ! みなさん、お待ちしていましたぞっ!」
「ちょとリリアンっ! 依頼料の足元を見られるから露骨に喜ばないでよっ!」
「聞け人間ども。
「よせ、そのように
「オレのイヌパンチで寝ていますっ!」
「こ、コテツさんっ? い、依頼人に失礼したら駄目ですわっ!」
えーっ、失礼してきたのは向こうからなのに……
「そのことじゃ! 支部長、このコテツと申す者は何者なのだ?
「当たり前だ、コテツ殿はAランク冒険者の私より全然強い! ランクはまだBだがコテツ殿の『
いやリリアンさん、何が哀しきなのか全くわかりませんが。
てか、その勝手につけた技の名前、やめてください。
「ほう、おぬしはAランカーであるか、頼もしいの」
「リリアン・バルボーレだ、剣士である」
「ならば剣士殿よ、いま犬の技と聞こえたがコテツはやはり犬なのか? 本人は病気で人間の身体になったと申しておるが……」
「コテツ殿がご自分を犬と言うのには深い訳があるのだ……だが、確かに人間だぞ。それは裸のコテツ殿をくまなく見た私が保証するっ!」
「私だって見たわ! 立派なモノすぎてウットリしちゃった、キャッ」
「ふむ、要領が得んな……まあこの話は保留にいたそうか。従者が申した通り、此度はギルドへの依頼で参ったのじゃ。内容は人捜しである」
「なるほど人捜し……その内容によってランクと報酬額が変わります。仮に誘拐された者の奪還となると、当ギルドでは冒険者の人手不足の
「コテツ殿、ナイショの話ですが、リリアンの奴はボッタクろうとしていますっ! 悪い奴ですねえ」
そのナイショ話、イヌの獣人さんには多分全部聴こえちゃっていますよ。
「構わぬ。それより
「フフ、いまはギルドの情報網とだけお伝えしておきましょう──メガネクイッ」
「コテツ殿、ナイショ話ですが、モニカの奴、さっきからメガネクイックイッさせて鬱陶しいですねっ!」
それは別にナイショ話にする必要はないのでは?
「では応接室へ場所を移して、詳しい話をお
モニカさんと獣人さんたちは二階へ行ったきりで、結構長い時間がたちました。
リリアンさんはヤル気満々のようで、お金お金と
オレはというと病気の手掛かりが
「コテツ殿、それにしてもあの獣人の姫とやらは、美しい少女ですな」
リリアンさんが後ろから話しかけてきましたね。オレは
「美しいかは分かりませんが、あのイヌの耳と尻尾がうらやましいです。体毛は無いそうですが」
「ほう、犬の獣人でも体毛は無いのですか? 普通獣人は尻尾から背中に特徴的な体毛があるようですが」
「全部ツルツルだそうです」
「全部ツルツル……こ、コテツ殿は、ツルツルがお好きなので?」
「いえ、フサフサが好きです」
「そ、そうですか、良かった……ホッ」
ん? 噂をすればご登場です。話が終わって帰るのでしょうかね。もうどうでもいいですが!
「柴犬のコテツ、妾たちは一旦宿へと戻る。また後日、おぬしの正体について話したいのだが良いかの?」
「正体もなにもただの柴イヌですよ、これ以上メスイヌさんに話すことはないです」
「ひ、姫様に向かってメスイヌとは何だっ! しかも背中で答えるとは無礼にも程があるぞッ!」
「ふふ、よいよい。だがコテツ、メスイヌは勘弁して欲しいの。妾の名はアジェルじゃ、今後はそう呼んでくれぬか?」
まあそうですね、あまり八つ当たりするのも可哀想ですしね。
オレは立ち上がって振り向き。
「じゃあアジェルさん、今度会うときはオレにもイヌの獣人のことを教えてください」
「うむ、よいとも」
「アジェルさんのハダカも見せてくださいねっ! 色々と興味があるんで!」
「なっ!? そ、そういう
「なんでですか? イヌ同士いいじゃないですか。てか、そもそも服を着ていることの方がおかしいですよ」
「だ、駄目なものは駄目じゃっ! あっ、お前たち剣を抜くなっ! と、とにかく今日は帰るっ、また会おうコテツ」
「はい、さようなら。おともだちになれそうなら、くんかくんかの儀式をしましょう」
そう言ったオレに対してアジェルさんたちは、
「こ、コテツ殿……ま、まさか獣人の姫とも、くんかくんかするのですか?……」
「かもしれません」
「がーん! くっ、おのれ姫めっ!」
「ああ、疲れましたわ。でも契約は大成功でしたわよ! 冒険者のみなさん、お聞きくださいっ!」
「なんだモニカ、冒険者なんて私とコテツ殿しかいないじゃないか。大袈裟なヤツめ」
おや? なんだかモニカさんがご機嫌なようですね。
「オホホ、私のことは支部長とお呼びくださいな! 今回の依頼ですが行方不明の獣人一人奪還するごとに、なんと七十万キンネの報酬が出ますッ!」
「なにっ!? ほ、本当かモニカッ!」
「オッーホホホ! 支部長様とお呼びっ!」
「支部長様っ! ありがとうございますっ! もちろん狙いはオスカーですねッ!」
「その通りですわ冒険者さん、あの
「ですな支部長様ッ!」
なんだか二人してとても悪い顔していますが……
一体なにが始まるのでしょうかね?
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