第11話 謎の組織ドッグラン
「やっぱりな……俺様、いま確信したわ」
なにをでしょうか? なんかこのイヤな人は勝手にどんどんと、ケンカへの道を突き進んでいくみたいなんですが……
「言っとくけど、俺様ってAランカーの槍使いなわけ。その槍をまぐれとかで
「はあ、そうですか……」
「お前さ、一体何者なの?」
「さっきも自己紹介しましたが、柴イヌのコテツです」
「はーん、読めたぜっ! 柴イヌってえのがお前の二つ名か……で、どこでその武術を学んだわけ? ヤバい組織の匂いがするぜ……もう隠しても無駄だっ!」
そんな匂いは全然しませんが……
「組織ってなんですか?」
「は? とぼける気なの? お前、仲間が大勢いるんだろ? 吐けよ! そこは何なんだよっ!」
組織とは仲間のイヌが一杯集まるところのことでしょうか? それなら。
「ドッグラン?」
「ドッグランか……なかなか手強そうな組織みてえだな。フッ、俺様の目は節穴じゃねえ! お前がその仲間の中じゃトップクラスなのは分かってんだっ!」
うーん、イヌの仲間の中では柴イヌは確かに人気ですね。
「かも、しれません……」
「やっぱりな。でなきゃ俺様の槍を躱せるわけがねえ」
「こ、コテツ殿っ! そ、それは本当ですかッ!?」
ん? なんかリリアンさんが興奮していますね。
「つまり、そのドッグランという組織の首領がキモオタ様だと……くっ! 私にとっては憎い組織だッ!」
「おい、お前! 一体何の目的でこのギルドに潜入した? その組織はここで何をするつもりだっ!」
潜入もなにも、オレはリリアンさんに教えてもらったわけで。
「働いてお金を貰うためですが?」
「しらばっくれやがって……」
「いや待てジェイン──さま。コテツ殿は今はもうドッグランなる組織を脱退されているんだ! だが……首領のキモオタのせいでいまだに悪夢に悩まされていて……くっ!」
「なんだリリアン、お前詳しいな」
「いや、いま知った」
リリアンさんまでこのイヤな人と一緒になって、おかしなこと言いだしました……
「そうか……だが脱退していようが得体が知れねえ事に変わりはねえ! 俺様が直々にお前の実力を測ってやるぜッ!」
てかもうこれ、ケンカというより何て言うか……ほら、あれです。ご主人様がテレビという板の中の人間がやっていることを見て笑っていた……えっと。
そう! コントです! それをする人間のことをお笑い芸人というそうです。
このイヤな人は、もしかしてお笑い芸人なのでしょうか?
まあオレもコントはキライじゃないので、お付き合いしたわけですが──
「ハアハア、当たらねえ……何度やっても俺様の槍が当たらねえっ! 全部こいつに躱されちまう。一体どういうことだあッ!」
いや、そりゃ当たったらイタいですから避けますよ。オレはお笑い芸人じゃありませんし……
「ねえリリアン、あんたコテツさんがこれほど強いって知ってたから、さっき落ち着いて見てたのね?」
「うんモニカ、実は知っていた。一度私もな、コテツ殿に剣で完敗しているんだ」
「そうなんだ……でもコテツさんて、本当にドッグランとかいう謎の組織にいたのかしら? 本当だとしても、この実力みたら納得できちゃうけど」
「うむ、おそらくな。そこで幼い頃からの洗脳と虐待の日々のなか、武術の達人にまで鍛え上げられたのだろう……悲しい過去だな」
「うん……涙がでてきちゃった。謎の組織ってより悪の組織だわ! 本当に逃げてこられて良かったわね」
「ああ、せめて私たちはコテツ殿に優しくしてあげようじゃないか。今まで辛かった分までも……」
こっちでもコントをしているのでしょうか……いやリリアンさんとモニカさん、優しくしてくれるのは嬉しいですが、その理由がわけわかりません。
「おいお前っ! 命かける覚悟はあるか」
「ないです」
「うるせえっ! これから俺様が、Aランカーの本当の恐ろしさを味あわせてやんよ!」
そんなの全然味わいたくないですが……
「おいジェイン! まさか
「遣うけど? てか、ジェイン様だろうがっ!」
「ジェイン──さま。それはやりすぎだぞっ!」
ああ、リリアンさん、優しいです。オレを恐ろしい味から守ってくようとしてくれるなんて……あとでペロペロして感謝の気持ちを伝えましょう。
「んなことねえ! 実戦なら魔法攻撃なんて普通だろ、こいつレベルの実力なら当然対処できるだろうさ。まあ、俺様には通用しねえがなっ!」
「そうかもしれんが……しかしコテツ殿!」
「はいっ! なんでしょうリリアンさん」
「ジェインは魔槍術を遣うつもりです、なので魔法防御結界をすぐに
「なんですか、それ?」
「魔槍術は物理攻撃の力を魔法攻撃に変換したものです、なので魔法防御結界が有効なんです。出来ますよね?」
「いいえ、出来ません!」
「えっ!? そんなっ!」
難しい言葉だらけでチンプンカンプンですね。でもなんかリリアンさんが本気で焦っているのは伝わりました。
なので念のため「デキるオス」モードで集中して、動きをゆっくりにしておきましょう。
「いくぜッ! 柴犬のコテツ、覚悟しやがれっ!」
おっ? イヤな人が持っている棒の先が蒼白く燃えてますね。なんかお墓に飛んでる火の玉みたいです。
「待てジェイン! コテツ殿は魔法防御結界を持っていないッ!」
「知るかよっ! それに様をつけろ! てか死ねッ!」
「やめろーーッ!」
あっ、火の玉消えた。おや? 消えたと思ったら火の玉の大きさの空気みたいのが、ゆらゆらしながらこっちに向かってますね……
これが恐ろしい味でしょうか?
とりあえずそんな味はお断りなので、避けておきましょう──ヒョイ。
もう危険は去ったようなので、集中をやめてゆっくり状態から元に戻してもいいのですが……ちょっとこのイヤな人に、ご主人様の顔をクシャクシャにした罰を与えたいですね。
とは言ってもネコのような陰湿なことはしません。このご主人様の張り紙をイヤな人の背中に張りつけてと……これで広めてもらいましょう!
では、元に戻します──って!?
その途端、ものすごい音が鳴り響いて壁に大きな穴があきました。
「コテツ殿ーーッ!」
「はいっ! リリアンさん、なんでしょう?」
「えっ?」
「あれ?……なぜか、俺様の後ろから声がするのだが?……」
「ぶ、無事だったのですねコテツ殿っ!」
「コテツさんっ! 怪我はないですかっ? どこも痛くないですかッ!?」
「リリアンさんにモニカさん、オレは全然大丈夫ですよ!」
「ねえ、お前、なんでそこにいんの? 俺様の魔槍術、なんで食らってないの? さっきまで俺様の目の前にいたよね?」
イヤな人が首だけこっちに回して何か言ってますね。背中の張り紙はまだバレていないようです。
「あなたの後ろにいる理由は罰のためです! あと、まそうじゅつ? は避けておきました」
「へ、へえ……魔法も避けちゃうんだ……」
「コテツ殿! 本当に魔法を避けたのですか? 魔法の目視は不可能なはずですが……」
「そうなんですか? ゆらゆらしてましたけど、リリアンさんには見えないんですか?」
「見えないです……すごいですね」
「俺様……今日はもう帰るわ……なんか疲れた……あ、リリアン、例の特別依頼な、二日後に出発だから……」
「わかった、壁の修理代は払えよ、ってジェイン、お前の背中……」
「うん?……なに?」
「いや、なんでもない……」
「あっそ……」
どうやらイヤな人はお帰りのようです。尊いご主人様の顔を背中に張り付けたまま、トボトボ歩いて行ってしまいました。
「コテツ殿、あの張り紙はいつ?」
「えっと、さっきまそうじゅつ? とかされた時です」
なんだかさっきからリリアンさんの目の色が恐いです。真剣というか必死というか……
「コテツ殿ッ!」
「は、はいっ! リリアンさん、なんでしょうッ?」
「図々しいお願いなのですが、私にコテツ殿の会得した武術をご教授頂けませんでしょうか!」
「いいですよ! 確か前にリリアンさんへの恩返しで、そんなことをお願いされていましたけっね」
「お、憶えて頂けていたのですね……感激ですっ!」
「もちろんですとも、恩返しはイヌの基本ですから!」
ところで武術とはなんですかね?
「では早速お願いします! ギルドの裏庭が広い訓練場になっていますので、そちらへ行きましょうッ!」
オレはリリアンさんと一緒に訓練場というところへ行きました。
そしたらそこ、素晴らしいんです! まさに理想的なドッグランですっ、走り放題ですッ!
あ、でもいまは走っている場合ではありません。まずは武術とはなにかがわからなければ教えようがありませんからね。
「ところでリリアンさん。武術とは一体なんなのでしょうか?」
「はい?……武術とは何か、とは?」
「…………」
「ハッ! これはまさか私を試しているのかっ!? くっ……! は、恥ずかしながら未熟者ゆえ、いまだその答えには辿り着いておりません……」
「そうですか、困りましたね……じゃあズバリ
「た、
ああ、なるほど! つまり「デキるオス」モードになりたいのですね。
しかしあれは病気にならなければならないですし……うーん。
「リリアンさん、あれを会得するには病気にならないといけないんです……」
「び、病気に?……」
「はい、つまりデキるメスイヌにならねばなりません」
「めっ!? メス犬に……!」
「そうです。イヌの動きなんで」
「犬の動き……あっ! そ、それは犬にまで堕とされ、病気になるほどの精神的虐待の副産物としてこの武術が生み出されたということかっ?……だ、だとしたらなんて哀しい技なんだ……」
「リリアンさんがイヌのように動きたいのならやってみますか?」
「は、はい!
リリアンさんはそんなにイヌになりたいのでしょうか? きっとイヌが大好きなんでしょうね、いい人だなあ。
よし、ならばオレも頑張りますっ!
なのでオレはリリアンさんに普段からイヌがやる行動を教えることにしたのでした。
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