第60話 世界の最果てにて

-----世界の最果てにて-----


「……ん。黒竜の反応が増えたのです? これは……」


 白髪の少女がつぶやいた。

 彼女が言う黒竜とは、もちろんイリスとディノスのことである。

 イリスの強大な気配は、卓越した探知能力を持つ者であれば遠方からも感知できるものであった。

 そして、【ドラゴノイア】により竜化したディノスの気配はイリスのそれと酷似していた。


「……妙なのです。イリスさん以外の黒竜は死に絶えてしまったはずなのに……」


 少女がそうつぶやく。

 イリスの種族名はレッドアイズ・ブラックドラゴンだ。

 それを知るものは世界広しといえどもほんの一握りの者しか知らない。

 少女はその内の1人であった。


「……イリスさんと交配できるような雄竜がいたのですか。面白いことになりそうな予感がしますね」


 彼女は青い目を細めつつ、口元に笑みを浮かべる。

 これから起こる騒動を期待しているかのように……。


「……ボクも行ってみることにするのです。ボクの種族は滅亡を待つだけかと思っていましたが……。これは光明が見えてきました……」


 少女がそうつぶやく。

 彼女の種族は、滅亡寸前であった。

 彼女が最後の1人である。

 男性が死に絶えてしまった今、座して絶滅を待つしかないと諦めていたところだったのだ。


「……待っていなさい。黒竜イリス。そして名も知らぬ……ボクの旦那様……」


 彼女はそう言って、白い翼を広げた。

 青き瞳を持つ、白き竜。

 月明かりを浴びて、その姿は幻想的に輝いていたのだった。

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