第55話 【世界各地の様子】砂漠地帯のとある貧しい村

-----砂漠地帯のとある貧しい村にて-----


「はあ……。今日も暑いわねえ……」


 1人の少女が、日差しが強い中、畑仕事をしていた。

 この村は昔から砂嵐が多く、農作物はあまり育たない。

 それに加えて、時おり魔物に襲撃されることもある。

 村人たちの暮らしはかなり苦しいものだった。


「うーん、今日の収穫はこれくらいかしらね」


 彼女はそう言って、籠の中に入っている野菜を見る。


「ちょっと少ないかな? もう少し何か採るべきかしら?」


 少なすぎると、家族が空腹に苦しむことになる。

 少女の家族たちも、日々切り詰めて生活をしている。

 たまにはたくさん食べたい気持ちはあった。


 しかし採りすぎると、未来の自分たちが飢えることになるだろう。

 安易に採りすぎるわけにはいかない。

 少女がそんなことを考えつつ、少し迷っているとき……。


 ポツリ。

 少女の肩に、冷たい感触が走った。


「あら? 雨かしら?」


 少女はそう呟いて、空を見上げる。

 最初は気のせいかと思ったが、すぐにそれは確かなものへと変わる。

 確かな量の水が、彼女の頭上に降り注いだのだ。


「え!? なんで!? 砂漠地帯のこんな村に……」


 突然の出来事に、思わず混乱してしまう彼女だったが……。


「あっ……」


 畑で栽培していた農作物が、みるみるうちに成長していく。

 それらはかつてないほど立派な実をつけた。


「すごい!! 奇跡よ!!」


 今まで何年も畑仕事をしてきたが、このようなことは初めてであった。

 ほんのわずかな雨ならまだしも、これほどまとまった水量が降ること。

 そして、水を得た農作物が急成長をしたこと。

 あまりにも不可思議な出来事だと感じた。


「もしかするとこれは……。神様のお恵みなのでは?」


 彼女がそう思ってしまうのも無理はなかった。

 それから数分もしないうちに、畑の作物は全て育ちきったのだ。

 それだけでなく、枯れていた井戸には清流が生まれており、畑以外の場所にも緑が息吹いている。


「神様……。ありがとう……」


 さすがに信じざるを得ない。

 砂漠地帯のど真ん中で、まとまった量の雨が降り、急速に緑が広まるなんて。


「ああ……。これでもう大丈夫……。みんなもお腹いっぱい食べれるわ……」


 彼女は涙を流しながら、神に感謝した。

 そのはるか上空で交わる、1組の黒い竜に彼女が気づくことはなかったのだった……。

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