第50話 取り残されたディノス

---ディノス視点---


 余はイリスが飛び去った方向に探知を行った。

 しかし、古代種であるイリスの移動速度は破格だ。

 余の探知魔法でも、捉えきれなかった。


「……くっ」


 最強の魔王として、不甲斐ない。

 側近であるイリスの異変は、断じて見逃すことはできない。

 余が対応策を練っていると……。


「ふん。お困りのようね」


 寝室から赤髪の少女が出てきた。

「イリスさんが出ていってしまったようだね。心配だな」


 同じく、青髪の少女が出てくる。


「フレアにシンカよ。目が覚めたか」


 なかなかに早い復活である。

 さんざんによがらせてやったのだが。

 さすが、高位魔族であるフレアと勇者であるシンカだ。

 体力と回復能力は桁外れのようだな。


「さすがのディノス……いえ、魔王様も、古代種であるイリスさんにはたじたじなのね」


「あの子からディノス君への感情はとても大きそうだからねえ。魔王様と側近というだけの関係に収まらないだろう」


 フレアとシンカがそう言う。

 余とイリスの関係を彼女たちなりに推察しているようだ。

 ……いや待て。

 聞き捨てならぬことを言っていた。


「……お前たち、余が魔王であることにいつから気付いていた?」


 余は身分を隠して真実の愛を見つけるために学園に入学した。

 イリスの魔眼の力を借りたとはいえ、半ば程度はフレアとシンカとの愛を確立できたと思っていたのだが……。


「違和感はずいぶん前から抱いていたわ。一人称が”余”の変人なんて、そうそういるものじゃないし。でも、確信したのはついさっきね」


「僕も。あんなに魔力が濃いものを中に出されたら、そりゃ気づくよ。僕もよくは知らないけど、こんなの絶対魔王様ぐらいじゃないと出せないし」


 フレアとシンカがそう言う。


「それほど濃かったか?」


「知らないけど、そうだと思うわ。絶対に妊娠しているわね……」


「うん。ディノス君のあれは強すぎて、妊娠確実になっちゃう……」


「むう……」


 確かに、避妊せずに最後までやってしまったからな……。

 だが、それでもまさか見抜かれるとは思わなかったぞ。


「それで? どうするんだい、ディノス君。イリスは行ってしまうみたいだけど、追いかけるのかい?」


 シンカが尋ねる。


「そうしたいのは山々だが、彼女の気配を見失ってしまったのだ」


「……ふーん。それじゃあ、もう手詰まりってことね」


「そうなるな」


 フレアの言葉を肯定する。


「なら、僕たちの出番ってわけだね。ねえ? フレア」


「そうね。私たちの力を見せてあげましょう。シンカ」


 2人がそう言って、魔力を開放する。

 何かを始めるつもりか。

 彼女たちの力を見せてもらうことにしよう。

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