第18話 フレアを助ける

 余とイリスは何やら音がする方向へ進んでいく。


「こっちです。陛下」


 イリスがそう言う。

 視界が開けた。

 少し大きな部屋だ。


「くうっ! 数が多すぎるわ……」


 フレアが多数の魔物に囲まれて苦戦している。

 彼女は、火魔法で必死に応戦していた。

 だが、彼女の魔法では、一度に数匹の魔物を倒すのが精一杯だ。

 とてもじゃないが捌き切れない。


「ううっ! もう魔力が……」


 このままでは、いずれ体力が尽きてしまい、魔物たちに殺されてしまうだろう。


「おい。貴様、何をやっている!」


「ひゃっ!?」


 余は、思わず大声で叫んでしまった。


「げ、レアルノート!?」


「ここは危険だ。さっさと逃げろ!」


「そ、それができたらやっているわよ! 見てわからない!?」


 フレアがそう叫ぶ。

 彼女はオークやゴブリンに囲まれている。


「魔物どもなら気にするな。余が足止めしてやる。それとも、お前は死にたいのか?」


「そ、それは嫌だけど……」


「なら、さっさと退け。余に任せよ」


「あなたがこいつらを? 正直、助かるけど、あなたじゃ無理よ」


「…………」


 はあ、と俺はため息をつく。


「な、何よ、その目は?」


「フレア。お前、まだそんなことを言っているのか。的あて試験でも、魔法陣の試験でも、余に勝てなかったのを忘れたか」


「そ、それはそうだけど! 実戦は別じゃない!」


「馬鹿が。なら、なぜ余はここにいると思う?」


「…………」


 フレアは黙り込む。


「とにかく、邪魔だ。さっさと行け!」


「……わかったわ。お願いするわね!」


 フレアが素早く退避していく。


「さて、これで思う存分暴れられるな」


 オークやゴブリンは、標的を余に切り替えたようだ。

 余は剣を構え、駆け寄ってくるやつらを迎え撃つ。

 まずは、複数のオークが同時に飛びかかってくる。


「ふん。そんな攻撃が通用すると思ったか」


 余は瞬時に加速し、すれ違いざまに体を切り裂く。

 まずは、1体。


「ブモォオオッ!?」


 続いて、2体目。

 最後に、突進してきた最後の1体の首を斬り飛ばした。


「ふう。この程度か」


 余は、魔剣に付いた血を振り払って鞘に収める。

 残るは、ゴブリンどもだ。


「「ギ、ギイィッ!」」


 やつらは、余とオークの戦闘を見て、腰が引けている。

 魔物とはいえ、考えなしに格上に襲いかかるほど能無しではないのだ。


「さあ、次は誰が来る?」


「「ギィッ!!」」


 ゴブリンたちは、一斉に逃げ出した。


「ふむ。逃げるか。まあ、賢明と言えよう」


 別に逃してやってもいい。

 しかしここは、殲滅してやるとするか。

 フレアとイリスという見学者もいることだしな。

 上級の魔法を間近で見ることは、彼女たちにとっても有益だろう。


「《炎槍》」


 余は、右手を突き出し、そう唱えた。

 すると、一瞬で全長1メートルほどの燃える槍が生成される。

 それを軽く投擲した。


「グギャアァアッ!?」


 たったそれだけなのに、20メートル以上先のゴブリンの心臓を貫く。


「う、うそ……」


 フレアが呆然としている。


「今のが、上級魔法の威力……?」


 イリスも驚いていた。


「まだまだこんなものではないぞ」


 余は、次々と魔法を放っていく。

 10発以上もの魔法を同時に発動させた。


「「「ギィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」」」


 数十匹の魔物たちが、たちまち消し炭と化す。


「すごい……。これが、レアルノートの実力……」


 フレアがそう呟く。


「さあ、帰ろうか」


 余は振り返り、そう言った。


「陛下、お待ちを。部屋の奥をご覧ください」


 イリスがそう言う。

 見ると、そこには宝箱があった。


「ふむ。あれは……」


「おそらく、このモンスターハウスの物でしょう。中には、レアアイテムが入っているはずです」


 余は、宝箱に近づく。


「ちょっと待ちなさい! この部屋で先に戦っていたのは私よ! 開ける権利は私にあるわ!」


 フレアが余を押しのけ、宝箱に手を伸ばす。


「待て。その宝箱には……」


「宝は私のものよ!」


 余の制止の言葉を無視し、フレアが宝箱を開ける。

 プシュッ!

 中から謎の気体がフレアに吹き付けられる。


「きゃあっ! な、なにこれ!?」


 フレアが驚きの声を上げる。

 またこのパターンか。


「そ、そんな! なんなのよ、これは!?」


 しばらくすると、異変が起こった。

 フレアが、苦しみ始めたのだ。


「ぐっ! かはっ! くぅっ! ど、毒なの……? 助けて……」


 フレアが涙目でそう言う。


「やれやれ。首席合格者がそのザマでは、学園に泥を塗るぞ」


「レアルノート……! こんなときまで、そんなことを……」


 フレアが憎々しげに余を見る。


「案ずるな。そのガスは毒ではない。ある意味、毒よりもタチが悪いがな」


 余の魔眼は、宝箱に仕掛けられた罠を見破っていた。

 もちろん、その内容もな。


「ど、どういうことよ?」


「それは、『媚薬』だ」

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