第8話 的当て試験
余たちは戦闘着に着替えて、校庭へと出る。
他のクラスの者たちと合同で魔法のテストとやらを行うそうだ。
「ふん! 私の実力を見せつけるのに、格好の舞台を用意してくれたってわけね!」
フレアが自信満々にそう言う。
「僕だって負けないさ。たくさんの証人がいる前で、僕の実力を見せてあげるよ」
シンカも負けじとそう言い返す。
この2人は本当に、仲が悪いな。
まだ入学して1週間しか経っていないというのに。
「見ろ……。あの2人、入学式で暴れていた首席合格者だぜ」
「魔力の波動がとんでもねえな……。常時開放魔力で、この量かよ……」
周囲の生徒たちがそうつぶやく。
フレアとシンカの知名度は、かなり高い。
なにせ、入学式でド派手なバトルを繰り広げたわけだからな。
高校一年生としては、破格の実力を持つと言って間違いない。
「フレア様の赤い髪、素敵……」
「ううん。シンカ様の方が魅力的よ……。見て、あの透き通りそうな青い髪を……」
女生徒たちがうっとりとした表情でそうつぶやく。
さらに、フレアとシンカ以外にも注目を集めている者がいる。
それは……
「見ろ……。あいつが、首席合格者の2人のケンカを止めていたやつだぜ」
「得体の知れない技で、2人の魔法を止めていたようだった。なんなんだ、あいつは……」
余を遠巻きに眺め、生徒たちがそうつぶやく。
注目を集めているのは余だ。
まあ、仕方あるまい。
あんな戦い方を見せてしまったからには、噂になるのも無理はない。
余は将来の伴侶を探すために、この学園に通っている。
魔王という肩書に惑わされぬ、真実の愛を探しているのだ。
過度に実力を見せれば余が魔王だと勘付かれるかもしれぬが、あの程度であれば問題あるまい。
余だけでなく、四天王や六武衆クラスでも発動可能な魔法だしな。
と、余がそんなことを考えている内に……
「皆の者! これより、合同での魔法のテストを開始する! なお今回は特別に、六武衆のバラガン様が視察に来られているのじゃ!」
教師のリーズがそう叫ぶ。
六武衆のバラガンか。
この学園で会うことになるとはな。
「儂がバラガンである! 諸君はヒヨッコだが、将来有望なヒヨッコだ! 世界の平和と発展のために、がんばるのだぞ!」
やつがそうあいさつをする。
無骨な武人タイプの魔族だ。
年齢は60歳を超えている。
「では、さっそく魔法のテストを行っていく! あの的を見るのじゃ!」
リーズがそう叫ぶ。
ここから離れたところに、的が並べられている。
的までの距離は、まちまちだ。
近いものでは、ここから20メートルぐらい。
遠いものでは、ここから100メートル以上離れている。
「あの的に魔法を当てろってことか?」
「近いやつはともかく、遠くの的は厳しそうだな……」
生徒たちからそう声が上がる。
彼らの推察通り、あの的に対して遠距離攻撃を行えるかどうかを見るテストだろう。
いかに繊細な魔法式を構築できるかが肝だ。
それに、威力や攻撃範囲も重要である。
威力が不足していると、的に届くまでに霧散してしまうかもしれない。
威力をたっぷり込めて攻撃範囲も広めにしておけば、多少狙いがずれても問題ない。
しかしその分コントロールが難しくなり、暴発や不発のリスクが高くなる。
そのあたりのバランスを考えて魔法式を構築する必要がある。
「その通りじゃ。諸君の今の実力をあらためて見せてもらうぞ。何、失敗しても即落第などはないから安心してくれ。ここは、諸君を教育する機関じゃからな」
リーズがそう言う。
入学テストでも、魔法の試験はあった。
生徒たちの実力はある程度把握しているはずだが、念のため最新の実力を知っておこうといったところか。
入学テストから数か月は経過しているし、各自成長しているはずだからな。
「わかったよ。まずは、僕が挑戦してもいいかな?」
最初に声を上げたのは、シンカだ。
「シンカ=アクアマリンか。いいじゃろう。実力を示してみろ」
リーズがそう許可を出す。
「おお……! 首席合格者のシンカさんだぜ!」
「人族の希望の星! 頼むぜ!」
生徒たちからそう声が上がる。
その声援を背に、シンカが前に出る。
的当ての規定位置に立ち、呼吸を整える。
「……澄みわたれ! アマリリス!」
しゅわわわ……。
シンカの髪が半霧化し、水の魔力が彼女を覆う。
入学式のフレアとの戦いでも使っていた技だな。
これ自体は攻撃技ではなく、魔力を開放して攻撃態勢を整える技だ。
次に放つであろう、攻撃魔法を見せてもらうことにしよう。
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