第6話 逆らうやつは皆殺しだ!

 波乱の入学式が終わった。

 次は、各自のクラスに向かう。


「やれやれ……。先が思いやられる入学式であったな」


 余はそうつぶやく。


「はい。しかし、陛下にとっては幸先がいいとも言えるでしょう。有能さをアピールできれば、伴侶となる者も見つけやすいです」


 余の隣を歩いているイリスが、そう答える。


「ふむ。しかし、学生レベルの有能さなどたかが知れているがな。余の全力を出せば、この学園の全生徒と全教師は一瞬にして塵芥になる」


「冗談でもやめてください。せめて、わたしが逃げるまでは待ってくださいね」


 イリスが冷や汗を垂らしながらそう言う。


「わかっている。もちろん冗談だ。それに、もし本気になったとしてもイリスだけは逃してやるさ。お前は余の大切な者だからな」


「へ、陛下……? それって……」


 イリスの顔が赤く染まっていく。


「うむ。お前がいなくなれば、誰が余の朝食をつくるのだ。有象無象がつくった料理など、口にするつもりはないぞ」


「がくっ。……そんなところだと思いましたよ。まあ、それはそれで嬉しいですが……」


 イリスが小声で何かをつぶやいている。


「む? どうかしたか?」


「なんでもありません。さあ、それよりも早く教室に向かいましょう。自己紹介とかあるはずですよ」


 彼女はそう言って、楽しそうな笑顔を浮かべた。

 有能な配下であるが、こういうところは年相応だ。

 学園という場を大いに楽しむつもりだろう。

 余も同じく、楽しませてもらうことにしよう。


 そして、教室に着いた。

 余を含む生徒たちが指定された席に座っていく。

 少し遅れて教師が入ってきた。


「諸君。妾がこのクラスの担任を勤める、リーズ=ストムフィルじゃ。よろしく頼むぞ」


 緑色の髪をした女教師が、そう言う。

 口調に特徴がある。

 しかしそれ以上に……。


「かわいい~」


「だれかの妹か? 迷い込んだんだな」


 生徒たちがそう言う。

 リーズとやらは、小学生ぐらいにしか見えない。

 だが、立ち上る魔力はまあまあだ。

 彼女が教師という話もあながち嘘ではないのだろう。


「ふん。本質を見れぬ有象無象が……。座れい! ホームルームを始める!」


 リーズがそう叫ぶ。

 その雰囲気を受けて、生徒たちも静かになった。


 しかし、こんな外見幼女を雇うとは。

 採用基準はどうなっているのだ?

 ……まあ、採用の最終責任者は余なのだが。


 今後の日程の簡単な説明の後、生徒たちの自己紹介が始まった。

 余の今後の学園生活を占う大切な自己紹介だ。

 ここでつまずくわけにはいかない。


「わたしは、イリス=ノイシェルです。よろしくお願いしますね」


 イリスが無難にそう挨拶をする。

 面白みの欠片もないが、余のサポート役としては過度に目立つ必要もない。

 妥当と言えば妥当だ。

 及第点をくれてやろう。


 引き続き、生徒たちの自己紹介が進んでいく。

 そして、見覚えのある少年の番となった。


「僕はシンカ=アクアマリン。水魔法を得意としている。入学式ではみんなに迷惑をかけて、ごめんね。学園での活動を通じて、人族は決して魔族に劣らないということを証明してみせる」


 彼はそう宣言すると、爽やかな笑みをたたえながら一礼をした。

 青い髪がよく似合っている。


「おお……。可憐だ……」


「カッコいい……」


 周囲からそう感嘆の声が上がる。

 男子からも女子からも人気だ。

 確かに彼は中性的な顔立ちをしており、男女両性から人気があるのもうなずける。

 余も、少し見とれてしまった。

 そんな彼の後に立ち上がったのは……


「ふん。私はフレア=バーンクロスよ。火魔法が得意なバーンクロス家の次女と言えば、知っている人もいるかしら? 入学式の件は、一応謝っておくわ。でも、魔族は人族よりも優れている。この点は譲らないからね」


 彼女は傲岸不遜な態度でそう言い放った。

 赤髪と大きな瞳が特徴的な美少女である。

 美しい容姿をしているのだが、どこか近寄りがたい雰囲気がある。

 何より、その目つきが悪い。

 喧嘩慣れしていそうな感じだ。


「美しい……。踏まれてみたい……」


「お姉様と呼びたいわ……」


 周囲からそうつぶやきが漏れる。

 シンカに加えこちらも男女両性から人気だ。

 魔王軍の幹部にも、こういうタイプはいたな。


 見た目はいいし、将来性も悪くない。

 フレアを余の伴侶候補の1人としておこう。

 もちろん、まだまだ見極めは必要だが。


 それに、フレアにも一応は選ぶ権利がある。

 よもや余の誘いを断るとも思えんが、可能性はゼロではない。

 魔王という身分を明かせば確実に落とせるだろうが、そうするつもりはない。

 余は、余の肩書や身分に惑わされる真実の愛を見つけリア充になるために、わざわざ素性を隠してこの学園に入学したのだからな。


 おっと。

 そんなことを考えているうちに、余の自己紹介の順番が回ってきたようだ。

 フレアの好感度を少しでも稼ぐために、ビシッと決めておかねばならない。


 ガラッ。

 余はイスを引き、立ち上がる。

 鷹揚にクラスメイトを見回す。


「ふん。それなりに優秀な人材が集っておるな。喜べ、このクラスは余が支配してやる。逆らうやつは皆殺しだ!」


「「「…………っ!!!」」」


 どよどよ。

 教室内にざわめきが広がる。


 いかんな。

 外したか?

 ここは笑ってほしいところだったのだが。

 一般民衆の笑いの感覚は、まだよくわからんな。

 おいおい掴んでいかなければならない。

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