第4話 2人の首席合格者

 人魔合同高等学園”ミリオン”の入学式が進んでいく。

 お偉いさんたちの退屈なあいさつ、校歌斉唱などだ。


 まあ、偉いとは言っても、もちろん魔族の頂点であるこの魔王ディノスよりは下だがな。

 余がこの学園に入学したのを知っているのは、側近であるイリスの他、四天王ぐらいのものである。

 元老院や六武衆の者たちには、うまいこと言って誤魔化している。

 いずれはバレるかもしれないが、まだバレてはいないだろう。


 校歌斉唱は、魔族と人族の穏健派が仲良く作詞したものである。

 手を取り合い、ともに平和を維持していこうという立派なことが歌われている。

 順調に入学式は進んでいく。

 次は――


「新入生代表の答辞をお願いします。……魔族首席合格者、フレア=バーンクロス」


「はっ!」


 堂々とした大声とともに、1人の少女が壇上へと向かう。

 赤い髪。

 身長は高く、ボディラインも整っている。

 あれは……。

 さっきぶつかった少女じゃないか。


 バーンクロス家の娘だったのか。

 彼女の父親……現当主は、先の大戦で尽力してくれた。

 余から褒美もたんまりと出してやったし、今は平和の維持のために働いているはずだ。


 そう言えば、優秀な娘がいると言っていたか。

 当時はまだ年齢が低かったので戦場に連れてくることはなかったが、戦争が長引けばそれもあり得るというような話はしていた。

 結局、余の配下の尽力と、最後に余が出張ってノースウェリアの結界を砕いてやったことにより、長引かずにあっさりと終結したわけだが。


「我ら魔族一同、平和のために粉骨砕身の覚悟で勉学と鍛錬に励むつもりだわ! 無知蒙昧にして脆弱なる人族は、崇高なる我ら魔族に少しでも近づけるように努力を怠らぬようにね!」


 フレアはそう言って、壇上から降りた。

 態度は堂々しており、見事なものだ。

 また、立ち上る火の魔力や闘気にも確かなものを感じる。

 バーンクロス家の当主が自慢の娘だと言っていたのは、どうやら誇張ではなかったようだ。

 だが――


「(ディノス様。あれはいけませんね……。陛下のご意向を無視しています)」


 余の隣に座るイリスが小声でそうつぶやく。


「(うむ……)」


 余がこの学校を設立したのは、魔族と人族が手を取り合って平和に過ごすためである。

 確かに、現時点での人族の知識や武力は魔族に大きく劣る。

 だが、それをこうもおおっぴらに公言して、侮辱とも取れるような発言をするとは……。


 人族の入学生たちに、ざわめきが広がる。

 フレアのあまりの言い分に困惑と怒りが発生している様子だ。

 入学式早々、暴動でも起きるか?

 余が武力で鎮圧してやるのは簡単だが……。


「静粛に! 静粛に!」


 司会役の先生が、必死に生徒たちをなだめる。

 少しは落ち着きを取り戻したところで、式は再開された。


「次に、人族首席合格者、シンカ=アクアマリン」


「はい」


 それほど大きくない声ではあるが、どこか迫力のある凛とした声だ。

 1人の少年が壇上に向かう。

 あいつは……。

 さっきぶつかった少年じゃないか。

 しかし、改めて見ると――


「(はて? 今日以前にも、どこかで見たことがあるような……)」


「(奇遇ですね。わたしもそう感じます)」


 余だけなら気のせいかもしれないが、イリスまでそう言うのであればどこかで会った可能性が高いだろう。

 しかし、余やイリスに人族の知人はほとんどいない。

 なにせ、1年ほど前までは戦争をしていたのだからな。


 平和になってからの1年で、魔族と人族の交流は進んでいる。

 しかし、余やイリスは政務に忙殺されていた。

 人族と交流する暇などなかったのだ。


「僕たち人族一同、平和に向けて多く学び、鍛錬を積むことを誓います。驕り高ぶった魔族を追い抜いてみせます」


 シンカはそう言って、壇上から降りた。

 その凛とした表情を見て、余はようやく思い出した。


「(やつは……。西方で名を上げていた”流水の勇者”か!)」


「(わたしも思い出しました。戦場でも何度か見かけたことがあります。わたしたちと同年代だったのですね)」


 余は今年で16歳。

 イリスも16歳。

 そして、シンカも同じく今年で16歳というわけか。


 つまり、彼女は14~15歳の頃から戦場に出ていたわけだ。

 若いのに、なかなかやるな。

 まあ、余やイリスも同じではあるが。


 余がそんなことを考えているとき。

 周囲にざわめきが広がった。

 俺はその騒ぎの中心を見る。


「はん。脆弱な人族がずいぶんと大言を吐いたものね。先の大戦での惨敗を忘れたのかしら?」


 赤髪の魔族の少女フレアが、侮蔑の目をしてそう言う。

 その視線の先に立つのは――


「ふん。種族全体としては、残念ながら若干の差を付けれれている。しかし、だからと言って君個人が僕より優れているということにはならない」


 青髪の人族の少年シンカだ。

 彼は毅然とした態度でそうフレアに反論する。


 両者、言っていることは必ずしも間違ってはいない。

 しかし、態度がいただけない。

 あれでは、ケンカを売っているだけだ。


「じゃあ見せてやろうじゃないの! ……燃え上がれ! レーヴァテイン!」


 ごうっ!

 フレアの髪が逆立ち、炎の魔力が彼女を覆う。


「受けて立つよ。……澄みわたれ! アマリリス!」


 しゅわわわ……。

 シンカの髪が半霧化し、水の魔力が彼女を覆う。


 両者とも、年齢の割にはなかなかの練度だ。

 しかし、入学式という場で武力行使とはな。

 ここは、止めてやる必要があるだろう。

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