恵令奈 - 02
「謝って済む話じゃないけど、本当にごめんなさい。今日の試合は私のミス」
「あー、そういうのいらねえって毎度言ってるだろ。俺のミスでもあるから謝罪は受け入れるよ。」
アリーナ出場選手の控室で、私はミスがあったことについて謝罪していたのだが、謝罪の言葉は遮られる。
尊史は謝罪を受け入れてくれたのだ。こちらとしてはきちんと最後まで聞いてほしいところではあるけど、無事に勝利できたこともあるし、ネガティブな話題のやり取りは疲れているので早々に切り上げたい様子なので一先ず話題を進める事にする。
「強化人間、だったんだね。」
「ああ。あの動きは内臓と骨格を強化していないと無理だ。」
強化人間。この過酷な地下世界で、人間をより高度な何かへ進化させるための実験が行われていて、その
でも、その出自は全く不明のまま。そして、今回のように暴走して、周りに少なくない被害を撒き散らすことが有る。過去に僚機として作戦を共にした傭兵もいれば、被験体を殲滅対象とした依頼を受けたこともある。味方として肩を並べてくれた傭兵については、いつの間にか名前がアリーナから消えていた。
作戦中に死んだのか、それとも、強化が元で死んだのか。
それは判らない。
ただ、私たちに判ることは、『そういう改造を施した人間がわずかながらに存在している。』ただそれだけ。
「結果的には俺の……俺たちの勝ちだ。」
今回の顛末について、尊史は雑にまとめるように少し語気を強めて言った。
「情報収集について詰め切れなかったところはミスとして反省はする。これ以上失敗したことについて悩むことは必要ない」
そう。失敗したことにいつまでも拘泥していてはいずれその後悔とともに敗北に喰われる。
それは私たちの終わりを意味するのだ。それは理解していた。ただ、今回の件は上手く切り替えができなかった。
「……でも!」
無駄なことだと解っているのに私は食い下がろうとする。
「あー……っとに。次の仕事を考えようぜ。んでさ」
尊史はいい加減うんざり、という気分を隠そうともせず話題を切り替えようとする。
「今更だけど、情報収集と分析は基本的に恵令奈の仕事だったな?」
「えぇ、そう。そうよ。だから……え、ちょっ……と、近い近い近い……!」
本当に今更な確認を肯定し、納得のいかない点について訴えかけるつもりだったが、尊史はずい、と顔を寄せてくる。この雰囲気を無視して唇を塞ぎにかかるかと内心驚きと呆れを覚えたが、その口は私の唇を塞がず、懲罰の内容を言い渡す。そういえばここのところ、そっちの処理をしている様子も無かったから、ここぞとばかりに攻めに来ている気がする。
「今夜ひと晩、覚悟しておけよ。久しぶりにたっぷり
「……へっ?」
唐突な内容に今度こそ驚き、その言葉の意味を噛み締めた途端、私の顔に羞恥の熱が灯る。
「聞こえなかったか?今日の失敗分について、イキ狂わせるって」
「そこまではっきり言わなくてもいいよっ!!」
自分でも眉が吊り上がり、眉間にしわがよっているのが判る。恥ずかしすぎて尊史と目を合わせたくなくて目をつぶり、よく理解した、と伝える。
「おいおい。お前さんにそんな態度取っていい権利あると思ってる?」
「え、いや……ご、ごめんなさい。ちゃんと……」
おねだりする、と言おうとしたところに尊史が被せる。
「恵令奈よ、言うことあるだろ?」
そう尋ねる尊史の意図を理解し、その内容から発展することを思うとまた顔が熱くなる。つい睨むようになってしまったが、言わなければいけないことが有るのだ。今、この場で。
「どうぞ、この私の身体を好きになさってください。お恵みを下さいませ……」
この後の睦み合いを思いながら夜伽することを思うと、顔の熱が飛び火して下腹部に熱がともる。
これがプレイの一環ではあると理解はするが、それでも必要以上にへりくだり、自分を犯してほしいと懇願することは、どこか屈辱感のある行為だ。
このお願い、尊史の評定次第でやり直しになることが多々ある。やり直しを強要される時は、かなり大きめの失敗を犯し、その対処や事後処理の労力がかかった場合がほとんどだった。
「いいだろう。準備しておけよ。楽しみにしてるからな」
尊史は甘さを含んだ声音でそう言うと、私の頬に手を添え、本当に軽く唇にキスを置いてきた。そのあと、頬に添えられた手の指が一瞬唇の端から侵入し、口腔から唾液を掠め取った後、彼は見えるようにその唾液を舐めとり、部屋を後にした。
これで私も蕩かされるのだから度し難い。
……尊史が部屋に帰ってきたら即ベッド行き、となるくらい準備をしよう。
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