エリー - 03
今から私は成り代わる。
敬愛している母様のお仕事をこなすことになる。
今のアリス=R=ルミナリスは私だ。
施設に閉じ込めた母様の元から自室に帰り、メールをチェックする。案の定、事前に杉屋亮平へ提案した強化プランに対する返答だった。
返答は、応諾する旨を伝えるものだった。ただ一言。
「力がほしい」
この一言で私たちの、いや、
たった一節の言葉で、破滅への糸が紡がれていく。
母様の言っていた通り、この計画は到底なしえるものではなく、行く先には制御不能の暴力が渦巻く未来しかないだろう。おそらくコアユニットをあの機体、「ディアブロ」へ実装しても私たちでは制御できない。今のまま稼働させれば途端に周囲50kmの生体はすべて排除されるし、稼働している発電所などの施設は灰になるレベルで蹂躙される。この地下に落ち延びた人類はすべてディアブロが滅却するのだ。
そのために、母様が大切に
私と亮平は日程を決め、亮平に施す施術について準備を進めていく。早々にコアユニット化してしまおう。適当なことを言えばおそらくあの調子なら問題なく施術を受けさせ、生体脳をユニット化出来る。
「ああ。わかった。荒川程度、塵芥に出来る位の力をお前にやろう。」
これで契約は成立する。いや、計画が元通りになったのだ。阻止しようとしていた者たちから生体脳を取り戻し、私たちが描いていた計画が、これで完遂できる。
この世界を今度こそ破綻させ、人類の歴史に終止符が打たれるのだ。
杉屋亮平と予定を合わせた日に彼の部屋へ向かう。身柄を回収するために向かった亮平の部屋に、彼の姿は無かった。予定時間より少し早いくらいだったが、呼び出しに反応がなかった。数分待ってもドアを開ける様子が無かったので合鍵となるカードでロック解除しようとしたところ、解除されない。
よくよく見るとカードリーダーが壊されていた。仕方ないので管理人へ連絡し、部屋へ踏み込んだところ、ブービートラップが発動。管理人が踏み込む前に、トラップを発見した。何かのガスかと思われたが解除するための道具もないため、簡易防毒マスクを管理人にも渡し、装着して踏み込む。発動したのは粉じんが多めの煙幕装置だった。そのまま部屋へ乗り込むが、そこに杉屋亮平の姿は無かった。開けられるところは開け放して確認するが、人影などまったく見えない。
「……さすが10年潜っていただけある、という事かしらね」
不機嫌さを隠さず呟く。
こういったキナ臭いこととは縁遠そうな管理人はまごつきながらどうしたらいいかと尋ねてくるので、ひとまずこちらであとは処理することを伝え、連絡先を伝えあう。苛立ちを隠さないまま強引に話を進めたこともあり、最後には管理人は怯え切ってその場を去った。
それと同時に、端末の呼び出しが鳴った。明らかに表示のおかしい着信だが、発信者は一人しか思い当たらないので応答する。
「やってくれましたね?母様」
「お前たちは目と耳を塞いだのだろうが、切り札を確保していたかを見るまでは手が回らなかったみたいだな。こういう事に備えて保険をかけていたんだよ。」
「ええ、それは今目の前で見せつけられました。さすがですね?」
「そういうお前らだから、10年間も私や公正を見つけられなかったんだろう?」
「耳に痛いお話ですが……これで終わると思うなよ」
「そっくりそのまま返すぞ、エリー。いや、アリス=R=ルミナリス」
「それはあなたではなくて?母様」
薄く嘲笑した声が、不快感を伴って耳朶に響く。ああ、どんな顔をしているか、余裕のありそうな様を想像するとこの女が憎い。強く憎ましく思うけれど、それでも愛おしい。
「いいや、今この時をもって
「どうするつもり?」
「もう、全部に決着を付けようと思う。」
「……そう。そんなことをして、研究の中で使い潰したモノへの償いにはなると思っているの?」
「どんなことをしても贖うことはできないと解っているつもりだ。だからこそ、10年前では出来なかったことを、今やり遂げる。ヴァルハラ機関を潰し、お前たちが、いや、
その言葉を最後に、通信が切れた。
母様は、レイナ=ブラントは己が
「うふふふ……!あはあああああハハハハハハハッ!」
杉屋亮平にどこまでの真実を明かすかは知らない。だが、どう転んだところで最後は
私の理想通りに進むのだ。全て。
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