尊史-05
「あー!ひと仕事終えた後ってやっぱりお酒がおいしいよおぉぉぉ……」
ジョッキに入ったエール酒を半分ほど一気に飲みこんだ恵令奈が、こぶしを握ってなった。ミッションを終え、当座の生活は何とかなるくらいの収入にはなったので、食事はしばらくご無沙汰だった行きつけのダイニングでとることにしたのだ。
「……あのトモキって人がやらかしてくれた時は、どうなるかと思ったよ……」
白銀のFAVへとどめを刺そうとしたタイミングが、何故か目標が無事に区域外を出ようとしていたところだった。あとすこしで依頼失敗になるところだったが、急ぎ撃破に向かったところ、間に合ってくれたので何とかなったが、果たしてあの傭兵、あんな雑魚をなぜ取り逃がす事態になったのか……
「ま、なんにせよ俺たちはきっちり仕事を達成した。それでいいじゃねえか」
「そーね。気になるところが無いわけではないけど。」
戦果について気になるところはあるのは同じと同意したあとで、恵令奈がこちらに目線を向けてつづけた。
「尊史、作戦中会った傭兵、あの人って、なんだったの?」
聞かれるだろうとは思っていた。どう言い繕うこともできない。あの傭兵は……
「あの時の生き残りだ。俺に復讐するつもりのようだな。」
多少の動揺はあった。だが、直接本人から聞いたことをただ伝える。それは、一蓮托生でここまでともに歩いてきた目の前のパートナーへの礼儀だと思うから、正直に、事実を伝える。
予測した通り、彼女は手に持ったグラスを取り落とさんばかりに衝撃を受けていた。そう、予測できないだろう。『ここにいる傭兵と同じ出自をたどっている傭兵と出会う』事なんて。奪い、壊す稼業なのだ。そこまで極端に低い確率でもない。
事実、俺もそうだったし、成し遂げたうえで今、こうしているのだから。
「ちょっと……ごめん。言葉が出ないわ……」
心底驚いた様子で、彼女の視線はせわしなく動く。傭兵である俺とともにある、ということはこういった出来事も起こる。あの作戦までは基本的に傭兵を殺すことはあっても、市民相手に無差別虐殺なんて依頼を受けていなかったのだ。
作戦行動を起こしたところ、結果的にそうなってしまった、というのがあの依頼だった。直接彼女は現場を見なかったから、俺と同様の落ち込みが無かったのだろうが、それでも、本来の依頼が、どういう依頼だったかを伝えたときの顔は今でも覚えている。
後悔と、呵責に苛まれた顔だった。あの時の顔は、俺もそうだったろうが、本当に見ていられなった。
「……ねえ、尊史。一回部屋にもどりましょ」
ウェイトレスが気を利かせて持ってきた追加のグラスには口をつけず、青ざめた顔の恵令奈は提案してきた。
「ああ……そうしよう。」
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