尊史-04
その声は、男の声で、だが、年若そうな人間のものだった。こういう稼業だ、
誰かの恨みを買うことについては心当たりがありすぎてどこのどいつかなんて
判別している暇はない。こういう手合いには深くかかわりあいにならず、さっ
さと決着をつけてやるのがいい。
「こっちだ。10時方向」
親切に自分がどちらから侵攻しているかを宣ったその復讐者は、FAVだった。
当然か。相手を叩きのめすには、相手と同等か、それ以上の力をもって対抗す
るしかない。銀色の機体は、陽光を浴びて鈍い光を反射し、その銃口は必殺の
意志をもって俺に向けられていた。
機体をそちらへ向けることなく、左後方へスライドダッシュし、バズーカの
砲弾をそいつが到達するだろうあたりへ置いてくる。
相手もそれを読んだのか、そのままブーストをふかしてジャンプ、バズーカ
から放たれた砲弾は、敵FAVのつま先にすらかすらず、そのまま予定したところ
の少し向こうで地面に着弾、爆発する。
「ルーキーのくせに、少しはできるみたいだな。」
ぼやき気味に相手に返す。
「なぁに暢気なこと言ってんのよ!!相手FAVが判明したわ。新進の、亮平が
乗ってる。」
「だれだそいつ?」
しばらく仕事もアリーナ戦もしていなかったのだからここ最近のルーキー事情はとんと疎いのだが、一応、気になるやつはピックアップしていた。だが、それらに亮平という名前の傭兵は居なかったはずだ。
「本当にここ3か月くらいで出てきたやつよ。今のところ遂行率は90%超えてる。
それに、アリーナ戦でも、5戦4勝よ。」
アリーナ戦はともかく、遂行率90%超えてるか。3か月間でどれだけ依頼をこなしたかはともかく、遂行できている量が結構な割合だ。そこそこやれるやつということのようだ。
「基本はアサルトライフルで中近距離戦を戦うタイプよ。背部武装も使うけど
……今日は垂直発射式のミサイルランチャー持ってるわね。注意して。」
垂直型か……機動力が一定以上あれば対処できるんだが、ルーキーのわりにいい装備を持っていやがる。それだけの報酬を得られているという事の証左でもある。
「どうした?!逃げるだけか?!」
強く殺意の籠った声音でこちらに問いかける。
「どこのどなたか存じませんが、さっさと決着つけるわ」
白銀の機体へ向き直り、ミサイルシーカーを合わせる。相手も背部のミサイルを発射してきた。ロックオンアラートがしきりに響く。
【敵ミサイル接近。およそ3秒で弾着とみられます】
レーダーにミサイルの影が見える。回避機動をとりつつ、こちらもロックオンと同時にミサイルを飛ばす。
「当たるかぁっ!」
先ほど、護衛のAVをつぶしたときに披露したので、どういうものか、というのはルーキーは理解していた様子だ。だが、炸裂した弾頭のすべてを読み切れなかった様子で、右肩部に1発着弾する。
衝撃で体勢を崩すが、ブーストをふかし、こちらに向き直る
「一筋縄ではいかない、か……」
オープンになったままの回線にやつのつぶやきが漏れ聞こえてくる。一呼吸おいてアサルトライフルを掃射しながらこちらに突進してくる。
『尊史!気を付けて』
ふいに恵令奈からの注意が聞こえてくる。
『無策に見えるけど、そうやって突進してくるスタイルが亮平のスタイルよ!弾幕に紛れて……』
解説とほぼ同時にレーダーに映る敵を示す光点の色が淡くなる。高度をとったとき、色が淡くなり、白に近づくほどレーダーの中心から遠のいていることを示すのだ。つまり
「……まあ、確かに高度をとる方が基本的にいいんだけどな。」
この機体とは相性のいい戦術と言っていい。ブーストで高速機動できるとはいえ、重さがあるので軽量の機体と比べれば遅いし、長時間ブーストふかしたままの機動は出来ない。そういう点では、上空から狙われると弱い。
「弾幕張るってことは、それだけ一発の威力は低いんだよなあ……」
そうぼやいたところで、ライフル弾の雨が降ってくる。着弾点を散らすように変則的な軌道で動く。ここで上空にカメラを向け、ミサイルのHUDへやつの機体を捉える。ロックオンと同時にまたトリガーを引く。それと同時に右腕バズーカへ切り替えて、やつの進路にバズーカ弾をまた置いてくる。ただし、4発撃ったうち1発は奴の進路から少し逸らして発射した。
「こっちの有利は変わらん!」
そう叫んだ白銀の機体はミサイルを回避するため、そのまま脇にそれつつ、上昇、さらにこちらへ向かってくる。
ブーストを休み休みふかしつつ、高度をとりながら分裂した弾頭もやり過ごし白兵戦を挑む気なのか、急降下してくる。こちらの狙い通りに。4発はなったうちの1発が、亮平の機体右脚部に直撃する。向こうから聞こえてくる悲鳴などに備えて無線を切る。
轟音を響かせながら白銀の機体が転がり落ちる。まともな着地体勢とれなかった事から、機体各部にそれなりのダメージが入っただろう。
「恵令奈、相手の機体ダメージ評価」
機体のカメラと同期しているモニタを見て恵令奈が連絡してくる。
『右脚部大破、ほか両腕部中破、胴体部ターレットポイントにも破損があると見られます。行動不能よ。』
「了解。」
ブーストをふかし、白銀の機体が不時着した地点へ向かうと、破損したヘッドカバーからむき出しのカメラが見える。そのカメラがこちらへ視線を向けるとちょうど、恨みを込めた視線がこちらに向かってくるような気分になった。
「……どこであったやつか知らんが……」
いや。本当はわかっている。こいつは、おそらく、あの時の生き残りだ。だから、ここで……
終わらせる。そう思ってバズーカの砲口を向けようとしたところに、恵令奈から事態の急変を知らせる通信が入る。
『目標が戦域外に出そうよ!尊史、掩護を!』
「……ち。こんな任務でしくじるなよ……」
撃破を担当したはずの僚機への愚痴をこぼし、全速で目標の破壊に向かった。
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