氷柱の魔女と魔石クズ

尾岡れき@猫部

第1話

「本当に大丈夫なの?」

「う、うん。リディにまかせて!」


 すっかりお馴染みになった魔女の国との交流野外活動。最終日は、箒競走チェイスをするのがお決まりだった。

 とは言えパートナーたる【魔宝オーブ】が小学校の段階で存在するわけがない。これは魔女の星と地球との異文化交流――いずれ、巡るかもしれない魔女と魔宝オーブの交流教育プログラムなのだ。


 魔宝オーブは、地球人の男性だけがなれる魔女のパートナーである。

 ポテンシャル高い魔女の魔力をさらに引き出すブースーターであると言われている。


 ある者は魔力の向上を。ある者は属性の付加を。ある者は分析能力を。ただし、魔女に選ばれた【魔宝オーブ】は基本的に、魔女の魔力向上させる役割を意味する。


 地球に魔女は【魔宝】を求める。


 国連を礎とした、世界魔術連盟(Universe Magic Federation――UMF)を通して、魔女世界の革新技術を地球に輸入する。その手始めが永久機関【オリハルコン】の導入である。SDGsで目標見直しが迫られたわけだが、当然、そんなこと小学生が知る由もない。 


 ガクはドキドキしながら、箒の後ろ、リディに掴まるように跨る。

 野外活動に来る少女達は全て、未来の魔女達だ。学達と比べられば、ホンモノのエリート。むしろ比べるのが間違いだ。だけどガクから見ても、リディの魔力は安定しない。箒に乗った瞬間、暴れ馬のように勝手に突き進むのを、何回もこの野外活動中、見た。


「ガク、オツー」


 クラスメートがニヤついて言う。勝負は決まったとでも言いたげで。

 無遠慮なあいつらに、苛ついただけ。そう心のなかで呟く。


「リディ、あのさ」

「なに、ガー君?」


 リディはガクと発音することができなくて、ガーになる。それがまた、クラスメイトの笑いを誘った。でも、と思う。そんなにリディに「ガー君」と言われることは嫌いじゃない、とそう思っていた。誰かをバカにするヤツより、リディのように、ひたむきに前向きな子の方が格好良い。

 だから、勝敗はともかく、できることを俺はしたい。ガクはそう思う。


「おまじない」


 とガクは、リディの目をその両手で覆う。


「ガー君?」

「いらない情報は目に入れなくて良いよ。コースは、何度も歩いた場所だから分かる。俺、目も耳も良いんだ。だから、リディは魔法に集中して」

「う、うん……」

 コクリと頷く。



…。

……。

………。


【3】

 :

【2】

 :

【1】


 閃光が空を染める。出発の合図だ。魔女により光魔法。でも、それに呑まれることなく――その前に、ガクはリディの背中を軽く叩いた。

 刹那、箒が飛び立つ。

 ガクはあの時の興奮が今でも忘れられない。

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