自立問答
ジュン
第1話
「一人前と認められるには、やっぱり自立することが条件だと思うわ」
「『自立』ってどういうこと?」
「他者の力を借りずに生きられること」
「そうかな……」
「何か異論があるの?」
「『他者の力を借りずに生きられる』人なんていないと思うよ」
「…………」
「むしろ、それは、『孤立』じゃないかな」
「『孤立』……」
「そう。自立っていうのは、生活が回っていくように日々やるべきことを調整していく力だろう。当然それには、自分の力量では及ばないことは、他者に助けてもらうことも含まれる」
「助けてもらっても『自立』できてるの?」
「そうさ。本当の自立は、自分でできることと自分にはできないことを見分けていく『おとなの能力』のことだから」
「もし、助けが必要なときも自力でやろうとすれば……」
「うまくいかないだろうさ。結果『孤立』してしまう」
「人間関係があってこその自立……」
「そう。『関係』ってのは、互いに連絡してるってことだろう。自立は『関係』ってものを否定するものなのかい?そうじゃないだろう。関係を否定すると『孤立』になってしまう。そのうえ、孤立は実は『依存性』と近しいから、むしろ、事態は真逆で、依存性を煽ることになる」
「それって、対人恐怖の人の心理状態に近いような……」
「近いってか、まさに対人恐怖そのものだ」
「そうか。私が自立にすごくこだわっていた、言ってみれば『自立ノイローゼ』に陥っていたのも、背後に対人恐怖の心理が働いていたからなんだわ」
「逆説的だけど、本当に自立している人は、他者に頼ることがうまいよ(笑)。なんでかって言うと、自己の能力を過信してないから。『できないことはできないんだけど』って相手に言えてしまう、緊張せずに。つまり、正直者だし、相手に対する信頼の表れでもあるから、相手も嫌な気がしない。結果、人間関係がうまくいくし、楽に生きられる」
「そういう力を私も手に入れたいわ。私、どうも、自己表現が苦手なのよね。どうしたら……」
「それに答えるのはすごく難しい。オーソドックスなやり方として、失敗しても良いから、あえて手抜きしてやってみる。仕事でやるのはハードルが高いと思うんなら、まずはプライベートなこと、家事とかを敢えて手抜きしてみる。段々慣れてくると、手抜きが習慣化してくる(笑)。これでいいのよ、って思えるようになる」
「そうなれば、『できないから手伝って』も言いやすくなる」
「そう。そういうことができるのが、自立、なんだ」
自立問答 ジュン @mizukubo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
言語認知物理学/ジュン
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
言語認知物理学/ジュン
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
言語認知物理学/ジュン
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
言語認知物理学/ジュン
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
言語認知物理学/ジュン
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます