アテナたんとでっかい桃?

「俺はちょっと山でシヴァ狩りをしてくるからアテナは川でこれを洗濯しておいてくれないか?」


 何やら新しい道具を思いついたらしい技術オタクヘパイストス脳筋女神アテナに大量の麻布を手渡している。


 ……おい、今さらっと物騒なこと言わなかったか??

 シヴァってたしか東方のヤバイ破壊と再生の神だろ?

 なんでこのへんの山をうろついてるんだ?

 というかそんなの狩って大丈夫なのか??

 世界丸ごと踏みつぶされたりしないか!?


「おまかせください!! あにうえもしばかりがんばってください!!」


 なんだワシの聞き間違いか。しばかり、ということは柴刈り、つまり木の枝を集めてくるってことだよな。

 そうだ、きっとそうに違いない……ちょっとは覚悟をしておけよ?


「それではいってきま~~すっ!!!」


 アテナは自分よりもでっかい籠に麻布を突っ込むと、そのままレテ河まで物理的にすっ飛んで行った。


 河岸についたアテナはでっかい籠をそのまま「ざばぁっ」とひっくり返すと、ぶちまけた麻布を踏んで洗濯を始める。


「うんしょ、うんしょ……あれ? じょうりゅうからなにかながれてきました」


 どんぶらこっこ、すっこっこ、と古風かつ間抜けな音を立てて流れてくるのはピンク色の丸くてでっかい物体……


「あれはももでしょうか!? あれだけでっかいと、さぞやくいでがあることでしょう!! ちちうえやあにうえとおいしくいただくのです!!」


 アテナはそのピンク色の丸い物体を拾いあげようとすっ飛んでいくと……


「あ~~れ~~~~!? なんだかすいこまれていきます~~~~~っ!?」


 ピンクの物体がぱかっと口(?)をあけると、周囲のものが片端から吸い込まれていく。

 河の水やそこらに生えている草、河原の小石……


「ああっ、あにうえからおあずかりしたせんたくものがっ!?」


 吸い込まれないように必死で飛んでいたアテナが悲鳴を上げた。

 いや、洗濯物だけじゃなくて、お前も今まさに吸い込まれんとしているんだが!?


 ピンクの物体の腹(?)におさまりそうなアテナは必死で双槍サリッサをぶん回して抵抗しようとしている。

 さすがにそろそろ助けてやった方が良いかも知れない。


 ……と、思ったら、アテナのぶんまわした双槍サリッサがピンクの物体にぶちあたって真っ赤な血がほとばしった。


「いったぁい~~~~」


 何やら可愛らしい声で文句を言って涙目でアテナをにらみつけるピンクの物体。

 よく見ると大きな丸い目と異様に短い手足がついていて、やたらめったら可愛らしい姿をしている。


「なんと!! ももがしゃべりました!!」


「ボク桃じゃないよ、カー〇ィだよ」


 ピンクの丸い物体が抗議したが……おい、版権大丈夫なのか?


「かーりぃ?」


「それは東方のヤバイ女神様カーリー・ドゥルガー! それより痛いよひどいよ、ちょっとお腹すいてただけなのに斬るなんて」


「ごめんなさい、きるつもりじゃなかったんです」


「そうなの?」


「すいこまれそうになって、あわててどこかにつかまれないかとおもって、ひっしでふりまわしてたらあたっちゃいました」


 何だか普通に話しているが、そいつある意味カーリー・ドゥルガーより危ない奴なんじゃないか?色んな意味で。


「それなら仕方ないけど……痛かったしおなかすいたからケーキちょうだい?」


「ケーキはないけどトリヨンチーズプディングならあります!!ひときれどうぞ!!」


 アテナはオリンピックの時に配るトリヨンを取り出すと、包んでいるイチジクの葉を取って蜂蜜をかけた。


「おいし~、ぷるぷるだね~。ありがと~」


 ピンクの物体は満足げにお礼を言うと、またどんぶらこっこ、すっこっこと川下へと流れて行った。


「さようなら~! ……あ、あにうえのせんたくもの、かえしていただくのわすれてました」


 手を振る脳筋女神アテナがぽむ、と手を叩いてつぶやいたのは、ピンク色がすっかり見えなくなってから。


 夕方になり、何故か目の周りに青あざをこさえたヘパイストスが山から帰ってくると、アテナがしょんぼりと洗濯物をなくしたことを話した。


「あにうえ、じつはかくかくしかじかで、おあずかりしたせんたくものをなくしてしまいました」


「ああ、かまわんよ。俺もシヴァ狩りに失敗したからな」


「ええっ!? あにうえでもしっぱいすることがあるんですかっ!?」


「当たり前だ。失敗は成功の母。俺だってこれだけ色々なものを発明しているんだから、それだけ失敗もたくさんしているんだよ」


 目をカッと開いて驚く妹に苦笑する兄。

 ……というか、今さりげに「シヴァ狩り」って言わなかったか??

 言ったよな??

 誰か嘘だと言ってくれ……


「とにかく何の前触れもなくピンク色のでっかい丸い物体があらわれたかと思うと、俺が目をつけていたシヴァをいきなり吸い込んでしまったんだ。おかげで獲物がいなくなって、俺の狩りは失敗。しかも獲物を取られると思ったのか、ピンクの物体にさんざんしばかれてしまったんだ」


 お前、「しばかり」に行ったはずがしばかれて帰って来たのかい。


「父上、やかましいです。そんなことより、アテナの首尾はどうだった??」


 おい、「そんなこと」でごまかすなよ。


「わたしはかわでせんたくをしていたら、じょうりゅうからピンクのまるいものがどんぶらこっことながれてきまして」


「ほう、そっちにも行ったのか」


「そして、かわのみずごとせんたくものをすいこんでしまったのです。あにうえごめんなさい」


「ああ、それは不可抗力だ。お前まで吸い込まれなくて良かったな。あれはなんでも吸い込むピンクの悪魔○ービィと呼ばれているんだ。今度からピンクの丸い物体を見かけたらすぐ逃げるように」


「はい!!」


 ……結局、シヴァ狩って何をするつもりだったのか、そもそもシヴァがそんなにゴロゴロいるものなのか、そもそもはるか東方の破壊神シヴァがなぜうちオリュンポスの裏山をうろついていたのか、あのピンクの物体カ〇ビィの正体は何なのか……


 数々の謎は残ったままだったが、とりあえずピンクの丸い物体〇ービィ異国の破壊神シヴァよりも危険だと言うことだけは明かされたので、それで良しとしよう。

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