追悼35 伝え聞く言葉の重さ。
見切り発車。一般的には危うい状態を表す。しかし、メンバーの誰もが不安の色を現さないでいた。
財 津「蜷川さん、裁く側にいたあなたがなぜ、このメンバーに」
蜷 川「判事の世間ずれが話題となり、裁判員制度が導入された。しかし、裁く側の
意識は何ら変わらないでいた。それに嫌気が差した、という処でしょうか」
財 津「さらっと言われる中に憤りを感じるんですが、教えてくださいよ」
蜷 川「…」
財 津「喜怒哀楽を共有しましょうよ。不確かな案件の結論出す者同士として」
蜷 川「そうですね。小さな綻びが意見の相違を生むこともありますからね」
財 津「はいはい、聞かせて貰いますよ、楽しみ~」
蜷 川「一般の人々の意見が尊重されるはずの裁判員制度。実際にはそんな簡単なも
のではないのです」
財 津「闇が深そう、楽しみ~」
蜷 川「財津さんは、軽薄そうに見えるが懐が深く感じます。隠し事をして悩むより
打ち明けて楽になる方を選びたくなる。面白い人です」
財 津「何でも聞きますよ~、では、どうぞ」
蜷 川「では。簡単に言えば、建て前は、本音には勝てない。特に権力を持つ者の
ね。ひとつの例を挙げます」
財 津「お願いします。結構鈍感な者ですから」
蜷 川「あははは、では。2009年10月22日に起きた女子大生が殺害され、放火され
た事件があった。竪山という男が起こした事件だ。詳細は割愛しますがこの
事件は裁判員裁判で行われた。結果は極刑が言い渡された。人の命を奪った
罪で前科のない被告が1名の命を奪った罪により、極刑が下された初めての
判決だった。弁護側が控訴し、一審の判決が覆り、無期懲役に減刑された。
裁判員も裁判長も納得して出したものをだ」
財 津「減刑した裁判長は同じ人だったの、そこには裁判員はいなかったのですか」
蜷 川「裁判員がいるのは一審だけです。裁判長も違いました」
財 津「担当者が変わって結論が変わるようでは、厳正とは何かと思わせますね」
蜷 川「特に法の下ではあってはならない。道程に誤りがないとすれば」
財 津「じゃ、なぜ、変わったのかなぁ」
蜷 川「裁判員がいなければ判決が変わる。それが納得いかなかった」
財 津「じゃ、なぜ、変わった?」
蜷 川「判決を覆した森下裁判長は、判決理由について、計画性がなく1人の命を奪
った事件で、極刑となった前例がない、と判断した。遺族の上告は却下され
判決が確定した」
財 津「前例がない、ですか。俺には責任逃れにしか思えないけど、あっ、あれか、
永山基準ってやつ」
蜷 川「はい。確固たる理由もなく作られた基準。世界の基準は極刑廃止。その狭間
で作られた苦肉の策ってところでしょうか」
財 津「いい加減なものですね。永山基準を定めた裁判長を悪者にし、自分たちはそ
れにちゃっかり便乗する。俺から言わせればそっちの方が卑怯者ですよ」
蜷 川「永山基準を作った裁判長も苦悩したはず。よって、犯行の罪質・動機・犯行
の様態、執拗さや非情なやり方など9点の項目に照らし合わせて決めるもの
にした。竪山の事件は、犯行の様態と被害者の数が争点になった。特に犯行
の様態と更生の可能性に焦点が合わされた。更生するかしないかは神こそが
知ること。性善説で犯罪者を裁くのは可笑しいと私は考えます。強酸主義の
中酷に資本主義を与えれば民主化するだろうと考えた民主国は今、独裁政権
とも言える資金調達で民主国の足元を大きく揺るがし、選挙も企業運営も特
許も金の力で奪い去っていき、打ち倒そうとしている。犯罪者を軽視し、多
くの被害者を作り出している。司法はその手助けをしていると思えてきたの
ですよ」
財 津「性善説は、モラルや倫理を備えた者同士で成立する。犯罪者はその真逆。犯
罪者の一部には仕方なくもなくはないが、実行するか思い留まるかは民度と
と同じだとおれは思います」
蜷 川「目には目を歯には歯を、は、性善説では補えないことを伝えている。加害者
側に立つか被害者側に立つか、裁く者は余程の理由がなければ、被害者側に
立つべきだと思います。中立とは両者の言い分が均衡している時に用いるも
のですよ。そのズレを補うのが裁判員制度なのに…」
財 津「建前は、国民感情に沿ったですが実情は何も変わらない、ですか」
蜷 川「残念ですが、私にはそう思えました」
財 津「内部から変えられないのですか」
蜷 川「前例がない、で、裁判員を含めた判決を覆すのであれば、裁判員制度の意味
はないではないか。裁判員による判決が覆されて、刑が軽くなった事例は7
件ほどあります。その内の3件が森下裁判長の担当だ」
財 津「じゃ、その森下裁判長が可笑しんじゃないの」
蜷 川「そんなに簡単なものではないですよ。東京高裁の刑事部は9あるのに重大事
件で同じ裁判長が何度も担当するのは異常ですよ。そこには何らかの力が関
与しなければね」
財 津「組織ぐるみってやつですか」
蜷 川「で、なければ説明できませんよ」
財 津「内部は変えたくない、か」
蜷 川「私にはそう思えます。それでも声を上げれば、声も出せない場所に追いやら
れて終わりですよ」
財 津「最高裁の思惑で前例を守ることが意図的に行われている、か。許せいない
な」
蜷 川「それは負け犬の遠吠えにしかなりませんよ。極刑を避け、他の刑に。それが
最高裁の公平性ですよ」
財 津「無期懲役って、犯罪者に三食睡眠付きで家賃・光熱費も国民の税金で半永久
的に支出するってことだよ。ホームレスになる人や貧困に苦しむ人を助けず
に。助ける・生かす優先順位が可笑しくないか」
蜷 川「私もそう思います。遠洋漁業や炭鉱のような過酷な労働力として罪を償いな
がら資金を稼ぐならまだしも、納得など行くわけがないのですよ」
財 津「蜷川さんは、最高裁にも裁判員を望んでおられる。国民の意見と大きく異な
った方法で裁くやり方に憤りを感じ、ここに居る訳ですね」
蜷 川「法曹界に絶望し、少しでも国民の意見が反映されるものするために、やり方
は違法でも起爆剤になるのではと思いましてね。人生長いようで短い。誤っ
ていても気づいて欲しい思いが強くなったわけですよ」
財 津「俺たちは英雄でも救世主でもない。ただ、罪を犯して更生の実務がない者や
今までの行いから判断し、粛々と目には目を歯には歯を、が言い付がれる本
意に粛々と敬意を持って遂行するだけですね」
蜷 川「間違いは許されませんが、万が一間違えれば、閻魔大王に思う存分裁いて貰
いますよ」
財 津「閻魔大王の裁きの基準を知りたいものですねぇ」
蜷 川「同感です」
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