追悼26 腐った林檎

 綾小路「桜子さんは、極寒の夜に薄着で公園にいた、家から10kmも離れた公

     園にです。失踪当日に数時間で低体温症によって死に至った、と警察は考

     えた。一ヶ月もの間冷凍保存でもされていたと判断したのか、全く理解に

     しみます。強引過ぎるのです。北海日道新聞などを使い、専門家面した悪  

     魔に魅力的なコメントを添えさせて」

 財 津「おや、感情的な一面が見られてほっとしたよ」

 綾小路「私としたことが…。失礼致しました」

 神宮寺「僕も同感」

 財 津「冒険家の子供たちが見つけられない。それも公園で。これをどう説明する

     かに寧ろ興味が沸くけどね」

 蜷 川「その弁明に私も興味がある。闇が深そうだが」

 三 上「何らかの形で桜子さんは亡くなった。遺体を保管し、後日、公園に遺棄し

     た、その方が納得がいくわ」

 綾小路「この事件は何もかもが可笑しいのです。病名も書類にあった薬も誤ってい

     た。死亡解剖は警察でなく、ご遺族が依頼した医師が行こなっている。解

     剖医の数の問題か、にしても遺体の処理を急がされたのは事実です」

 財 津「蜷川さんが言った闇が深い、は、子供のイジメに端を発し、そこに大人の

     思惑が絡み合っているということ、だな」

 綾小路「そこで、皆さんにお約束した成功報酬ですが、今回は、完全なる成功に至

     らずともお支払致します」

 財 津「いま、それを言う?」

 綾小路「解決を焦るのも長引かせるのも不本意ですから。それと、プロとして報酬

     はちゃんと受け取って貰います、形はどうであれね」

 神宮寺「何か、昔テレビで観た、必殺仕掛人みたいだね」

 財 津「仕掛け人か…仕掛けて仕損じなし、か。そう願いたいね」

 蜷 川「同感だ」

 財 津「闇深き事件を裁くには、闇しかないってことか…」

 綾小路「はい。しかし、法で裁けるものは裁く、それが本筋です」

 三 上「法の脆弱さを衝かれて逃げ延びるなんて許せない」

 蜷 川「法は完全じゃない。時代錯誤は否めない。人が人を裁く難しさだ」

 三 上「蜷川さん、本当に変わったんだ」

 蜷 川「それを言うなら、変わらざるを得なかった、ということだ」


 関わってこそ分かる、それぞれの思惑によって泥沼化し、主犯がいるというより、複合犯による様相を呈していた。裁けない少年犯罪と裁かれるのを逃れる成人犯罪。大きな罪が分散され、軽い刑の積み重ねになる歯痒い形態を見せ始めていた。


 綾小路は、傷口を楔で抉るように真実を明かしていった。


 綾小路「遺族側は、警察の捜査にジレンマを覚え、情報収集のためビラを配りま

     す。その結果、桜子さんを失踪後にショッピングモールや近所のコンビニ

     で見たという情報提供を得る。警察は、何故か桜子さんは直ぐに帰宅する

     と考え、初動捜査で防犯カメラ映像を調べていません」

 神宮寺「信じられな~い。もっとも労力を割かず、迅速かつ確実に探れるのに」

 蜷 川「決めつけだな、旭川東警察署の。この失敗・後手を払拭するために警察は

     動く、事件解決より失態隠蔽を優先的にね」

 三 上「腐っている」

 財 津「おふたりとも熱くならないで、続きを聞きましょうよ、ね」

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