2
マシューが声のする方に顔を向けると、角の無い一際大きなトナカイがウインクして言った。
「ハーイ!あたし、ルドルフ4世、すんごい名前でしょ?でもさルドルフって由緒ある名前だけど何かしっくりこないのよぉ。だからルディって呼んでくれる?あんたイケメンじゃない。ま、人間の顔なんてどれも一緒だけどね。それでそれで──」
「待って!えっと、ルディ」
ルドルフ4世と名乗ったトナカイはおしゃべりが大好きなのか、放っておくとずっと話し続けてしまいそうな勢いがあった。
それにマシューは僅かに違和感を感じてもいたので、ルディのお喋りを中断させた。
「そーよールディ!一発で覚えてくれてサンクス!お利口さんね」
ルディは上から目線でまたウインクした。
間を空けるとお喋りが始まってしまう。
「君は雄なの?雌なの? 」
慌てて質問を捻り出す。
「やーねー。そんな野暮な質問」
ルディはブルンと首を振って他のトナカイ達に目配せした。
「ルディは雄でもないし~雌でもな~い ~心は雌で、身体は雄~~最強の~~~~トナカイ~~最強の~~おネエ~~~~」
他のトナカイ達が素敵なハミングで教えてくれる。
普段から練習してるのだろうか。
「そういう訳なの。分かった?マシューちゃん。ルドルフは雄の名前だからしっくりこないのよぉ」
ルディには角がない。
冬期に角が生えているのは雌だから確かに雄だ。
但し、それは目に見える部分に過ぎない。
ハートは雌なのだ。
「最強のトナカイだって?もしかして君はあの、伝説の赤鼻のトナカイ、ルドルフの子孫? 」
「そうよぉーーでも、あたしの鼻は平凡な黒。先祖の威光で輝きたくないわ。あたしにはあたしの強さがある。雄の逞しさと雌の優しさを持つトナカイは間違いなく少数派よ! 」
少数派と言われると確かに貴重な感じがする。
マシューの心が揺れた。
曾祖父のソリを引いたのは赤鼻のトナカイことルドルフ1世だ。
それにしても最強なのに売れ残っているのは何故なのだろう。
「あんた、正直者ね。心の声が丸分かりよ。あたしの勢いとノリに付いていけない臆病者が多いだけ。まあ、スケールが小さいのね」
分かり易く言うとお喋りでハイテンションだから他の合格者達はひいてしまったという事だろう。
マシューは迷った。
「今回が始めてでしょ?サンタやるの。なら、あたしにお任せよ。あたしを選べば今ならコーラス隊もおまけで付いてくるわよ。お得よう」
どうやら、この強烈に個性的なトナカイを選ぶと素敵なハミングを奏でるトナカイ達までセットで付いてくるらしい。
期間限定のように言っているが本当は常にそうなんじゃないのか。
だがマシューはおまけという特典に弱かった。
今、小屋にいるのはルディとコーラス隊で6頭、それ以外のまともで大人しそうなトナカイ達は9頭で合わせて15頭。
ルディとコーラス隊以外の9頭の中から6頭を選ぶ事も出来るが、3頭があぶれる形になってしまう。
「おまけ……」
「おまけよ。おまけ!何故ってあたしは最強のトナカイだから。一頭でホントはソリを引けちゃうの。そこにコーラスまで付いてくるんだから迷う事ないでしょ? 」
グイグイと自分を売り込んでくる。
「最強……」
個性が強すぎる気もするが、一頭でソリを引けるなんて凄い。
彼女、いや彼、彼女か彼に決めるべきなのか。
「迷ってんの?あんた、そういえばマシュー・クローバーって名乗ってたわね。ジョセフの曾孫?なら迷う事ないわ。あたしの父は寡黙で、祖父はあたしと同じでおしゃべりで陽気。初代ルドルフは弱気。弱気なアンタとあたしなら息がピッタリな筈よ」
確かに、マシューは押しに弱かった。
「オーケー。分かった。君に決めたよ」
「Yeah!そうと決まれば自己紹介!名付けてルディの親衛隊!レディファーストHere we go! 」
いきなりラップが始まった。
「始めはサーシャ、助ける者Yo。あなたを助け導く者Yo。サポートじゅうYo。迷っちゃダメYo。見失うな方向。Yoチェケラッチョ」
「お次はレベッカ。固めなチームワーク。あたしは輪を結ぶ調停役!ルールは遵守でプレゼント。素早く届ける聖しこの夜! 」
「俺はルーカス、光を運ぶイル・ドープ
(キテる奴)!ノエルに響かすクールなラップ。希望で道を照らすぜワッツアップ」
「俺はダンカン、褐色の戦士。余裕で利かせるぜタイトなエッジ。クルー(友達)のレペゼン(代表)。ググるなエンジン。迷うな突き進め、止めんなエンジン」
「最後はエイダン、チームのバイブス(情熱)。パワーとエネルギーこそ俺のバイブル!燃やすぜソウル!点すぜキャンドル!いつでも呼べよ。俺はインダハウス(ここにいる)」
「HEY!Yeah!HEY!Yeah!走りは上等!ノリもサイコー!息もピッタリの俺達最強!俺達選べばノーダウト。ルディのクルー、抜群にill(カッコいい)サイコーのskill!ルディはクールでご機嫌なスマイル!今日からお前は俺達のマイメン(ダチ)」
何て多才なトナカイ達だ。
ラップも息が合っている。
何よりも、トナカイのラップを聞くのは生まれて初めてだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます